カモ
破壊音と弾丸の擦れた臭いが鼻につく。
これはピストルを使った時の嫌な臭い。
そしていい匂いでもある。
巡る記憶は螺旋上。
脳内に走り去る映像はまるで『走馬燈』
私が碧生であって碧生ではない時の記憶が流れ込んでゆく。
全ては過去の産物でもあるのだが、私にとっては己の軸が成型する為に必要だった『記憶』の一つでもある。
人間には光と闇がある。それはメンタルを表す場合もあるが、私の発する言葉の数々は人間そのものの裏と表を表す言葉を示す。闇に包まれた私とその闇を覆い隠す私は二つの立場を併せ持つ人間。全ては権力と金で支配出来る世界でもあり、その表には複数の複雑な事情が絡んでいる。
『碧生さん…あなたは一体何者なんですか?』
「何の事です?」
『…その情報を何処から聞いたのですか?』
「聞いたなんて…そんな事しませんよ」
『…だったら何故、あなたは』
拳銃の輸入ルートを知っているのですか?
その一言で記者が私に問い詰める。
ここは感情的になる羽目は外さない。
だからこそ、不安定な自分と冷酷な自分を混ぜながら『人間』の弱さを演じていくのです。
こうする事により、本当の自分の姿や思考を隠せますし、なんと言っても都合がよい。
そう、私『碧生』の本当の姿を知らない人達なら皆が思う事。
こいつは頭が緩いんだとね。
あはははは。
そう呟かれてもいいのです。こちらにもこちらの都合がある。法律の抜け道を潜り抜けるには必要な事なのですからねぇ。
そう心の中で呟く悪魔の私の姿など『誰一人』として知らない真実であり、現実なのだから。
全てが表に出た瞬間に人々は疑心暗鬼に捕らわれながら、私を疑うのかもしれない。
しかし、それも一つの運命のルートと言ってもよいだろうね。
「言いたい事は理解出来ますが、そんな『簡単』な事を言う必要もないかと思いますよ?」
微笑む私は相手の心を凍り付かせ、地獄へと叩き落す。全てはビジネス。
そこに人間の感情など必要ないのです。
それが私達の『ルール』ではないのですか?
淡々と語り続ける私の言葉は氷の冷たさのように冷酷で、相手の顔色がドンドン真っ青になっていくのが分かる。
震える程度でこの『世界』から逃げ出そうなどど、あなたには早い話だと思いますがね?
調べてはいけない所まで、首を突っ込んだ記者のあなたをこのまま無事に帰す訳ないと思いませんか?
「記者なら、分かるはずですよ、癒着も拳銃の流れ道と入り口が。私の握る情報は一部ですし、自分の身を守る為に、これ以上の検索はしません……」
…今の所はね、その一分を省く事により、自分は黒でも白でもない『グレー』の立ち位置に立つことが出来る。
簡単に言えば言葉の『魔術』そう言ってもいいかもしれないね。
私はウィンクするみたいに
、右目を瞑りながら、茶化す。プライドの高い人なら得に誘導できる。
高学歴は得にね。いい蜜なのだよ。
高学歴でこの世界に入り込んでいる人は『殆ど』いないからね?
いいカモなんだよ。