新居
ココアを頼んだ時、私達の前で唇の糸を解いていたレイカの姿を思い出す。本当は誰かに強制されているのではなく、自分から望んであの姿になったのではないだろうか。しかし理由が見つからない、何故だ。
「糸を外せば食べれるんじゃないのか?」
「……あの子、人前で糸を解いたの?」
「そうだが?」
「珍しい事もあるものね」
一言置くと、レイカを見つめる蒼生の瞳が揺らいだ。感情を露にするなんて珍しい。昔の蒼生ならこんな目つきをしない、何か変化でもあったのかもしれない。何せ10年以上も会ってなかったのだ。心情が変化していてもおかしくはない。あの父親がそれを許すのか、どうかは微妙な所だが。
「あの子、一応食べれるんだけど、私達が用意した食事には手をつけないのよ、警戒しているんだろうけど」
「警戒するような事をお前たちがしたんだろう?」
「私は時々様子を見に行ってただけよ、レイカをこんなふうにしたのは別の人だもの」
保護者と名乗っといて、それはないだろう。それは蒼生の都合であって、逃げ場を探しているようなものだ、言い訳は誰でも出来る。こんな事になる前に手立てはあったんじゃないか。
「私からしたら同じ事だ」
「蒼からしたらそうかもしれないわね」
他人事のように話をする蒼生の態度が気に入らない。私はこんな考え方の人間にはなりたくないし、なろうとも思わない。怒りを通り越して、呆れている自分にも腹が立つ。蒼生はドアを開けると、私達が入っていくのを確認して、ドアを閉めた。
部屋に入るとテーブルと椅子がある。ヒスに聞くと自分の本当の部屋から持ってきていたらしい。きちんと四人分の椅子も用意されており、こんな状況になるのを予め分かっていたような感じがした。まぁ、そんな事はないだろうが、今は人を疑ってしまう。
レイカは付属でついているベッドに横にさせ、布団をかけてやった。そして蒼生達の待つ部屋へと向かった。