逃げ出した経由
話を聞いていると驚く内容だった、時間はかかったが内容がきちんと分かったから、そこは安心。私とヒスは小さな溜息を落とし、レイカに告げる。
「よかったら私達と暮らすかい? そんな家にいるよりいいと思うが……」
──迷惑をかけてしまいます。
「いやもうかかっているから、気にしなくていい」
「兄さん、言い過ぎ」
何故だ? 本当の事を言っているだけなのに、そんなに言葉に棘があっただろうか。それにいくら境遇が悪くても、本当の事は言うべきだ。例えレイカが傷つこうが。それを踏まえて環境を変えたいと言うのなら、自分から変化を求めるだろうからな。
「どうする?」
──……。
「兄さん口悪いから、気にしないで」
──いえ、本当の事ですから。
「変わりたいと思うのなら来ればいい、君自身が決める事だ」
──お邪魔じゃなかったら、ついていきたいです。
そうメモで綴るとなんだかんだ言いながら、決断力の速さに驚く。家で監禁されて逃げてきたと言うのも嘘じゃないかもしれない。まだ全部を信じた訳じゃない、何せ初対面なのだからな。しかし、傷跡を見ていると、事実じゃないかとも思う。
自由に外に出れないように片足を切断し、どん底に突き落とす為に片手も奪われた。そして口だ。誰とも喋れないように糸で唇を縫うなんて、どんな神経をしているんだ。狂っているとしか思えない。勿論全ての傷跡を見せてもらった。ヒスは顔を顰めていたが、私はきちんと確認する事が出来た。それはレイカからすれば屈辱だったのかもしれない。
「一つ聞いていいかい?」
──はい。
「何故、私達にしたんだい? 助けを求めようと思えば他にもいたはずだ」
──昔、母に言われたのです。車のナンバーを教えられていて暗記している番号と同じだったので。
車の事を言われて、ドキリとした。この車はいまは亡き祖父から貰ったものだったからだ。子供の頃からこの車に憧れていた私は祖父と約束して、父をかいして譲渡してもらったもの。ナンバーには思い入れがある番号を使っていて、全ては祖父から繋がっているものだからだ。
レイカの母親ってもしかして……
記憶の糸を辿り、色々な言葉のピースを集めていく。レイカに色々な質問をしていくと、妙な懐かしさが体中を駆け巡り、涙があふれそうになる。この女は、いやこの子は、昔、私と関りがあった九条家の遠縁かもしれないと答えに行き着いた。確か名前は違っていたはずだが、その妹かもしれない、それか何かしら理由があり偽名を使っている可能性を見出してしまう自分がいた。