ココア
「ココアかぁ、僕も同じものにしようかな。兄さんは?」
「私はコーヒー、ブラック」
「あっ、そっか兄さん甘いもの苦手だったよね」
「まぁな、一息つきたいし」
ヒスは女と同じものにし、私はブラックコーヒーにした。店は少し込みだしたようだ。ここは喫茶店でもありバーでもあるようだ。夜の八時からバーに切り替わると聞き、それはそれで見てみたいと思う。私は甘いものは無理だが、酒は大好物なのだから、つまみと酒があれば尚よい。
「少し落ち着いたし、話せる?」
私達は軽く飲むと、カップを置き、ヒスから切り出した。女はコクンと頷き、取り出していたメモで文字を書いていく。片手だけで書くのは大変だろう、抑える手があった方がいいと思いながら見つめていた。しかし本人は慣れた様子で書く、私の心配は杞憂だったようだ。
書かれたメモをこちら側に向けると、少しイソイソしている女、緊張しているのだろうか。私は「大丈夫だよ」と満面の笑みで伝えると少し安心させれたみたいだ。ヒスに習って、真似をしてみたのだが、変じゃなかっただろうか。
メモにはこう書かれていた。
──拾っていただきありがとうございます。
私の名前はレイカです、年齢は23歳、好きなものはココアです。
年齢までは分かる、この女は自分の状況が分かっているのだろうか、それとも天然なのか。自己紹介から始めるのは理解出来るが、わざわざ好きなものを書かなくてもいいと思うのだが……私の中で沢山のハテナが降り注ぐ。
「へーレイカちゃんか、僕の名前はヒスだよ。同い年じゃんか、ねぇ兄さん」
「ああ、そうだな」
「ココア好きなんだ~、僕も好きだよ」
ちゃっかり乗っかるのな、そういう情報はどうでもいいんだが、ヒスの対応の方が合っているのだろうか、私には分からない。簡略出来る所はする、した方がきちんとした情報だけ取り入れる事が出来るからだ。本題に入りたいのだが、この調子だと時間がかかりそうだな。
「ほら兄さんも自己紹介しなきゃ」
「ああ。私の名前は蒼生だ、年齢は23歳、ヒスと私は双子の兄弟で私が兄だ。実年齢より子供なのはヒスで、まだマシな方が私と覚えてくれたらいいからな」
「何それ、ひどい」
「本当の事を言っただけだろう」
──コクン
少し間を置いて頷くレイカは空気をよく分かっているようで便乗してくる。するとヒスはレイカちゃん違うからね、と何度も何度も訂正した、その姿は必死過ぎて、私もレイカもにっこりとした。マスクをしていても目が笑っているから、少し気楽になれればいいと思ったのだ。