古民家喫茶にて
通された席はテーブルだ。カウンターと違って、中が見えないように隠れている。木々が複雑に絡み合って入り口を塞いでいるような感じだった。外観とは裏腹に個性的なお店だな。女もこういう店に入ったのが初めてのようで戸惑っているように見えた。
「さ、座ろうか」
「ああ」
─コクン
慣れたように席につく。私はヒスの隣に座り、女は前に座った。カタンと杖の音がテーブルを鳴らす。こちらにも響いてきそうな振動。少しだけだが、ぎこちない。
「何飲む?」
私に聞いてきたので、気を使わせないように女に聞いてみる。別に口説く訳じゃないし、ただ聞くだけ。女に慣れてない私は自分で出来る限りの気遣いを見せれたと思う。まぁ、ヒスと比べ物にならないくらい不器用だったかもしれないけど。
「貴女は何、飲みます?」
そう聞くと女は肩にかけているポーチからメモ用紙を取り出そうとした。しかしメニューがある、書く癖がついているんだろうと思うと、口添えた。
「メニューを見てからにしましょう、指でさしてくれれば大丈夫だから、ね?」
──コクン
いつもの口調ではない事に気づき、コホンとわざとらしく咳をする。ヒスはその様子を見ながら、ニマニマしていて、気持ち悪かった。なんだか調子が狂わされている気がする。別にいいが、自分のイメージがどんどん上書きされていく。
「兄さん、優しいね」
言葉をスルーすると、女を観察してしまう。体制を崩している隙間からチラリと瞳が見え隠れする。最初の印象とは違って、メニューを見て悩んでいる姿は女の子だ。目元だけだから分からないが、どちらかと言うと童顔だと思う。
ヒスのあの立ち回りように疑問を感じていたが、美人なのに気づいていたと言う事か……前髪が長くて目が隠されているのに、よく分かったな、と感心してしまう自分がいる。そういうセンサーがついているのかもしれないと考えていると、笑いそうになってしまう。
我慢したけどね──
こういう空間も悪くない、そう思い始めた時に、女はメニューを見終わったのか人差し指でホットココアの文字を指さした。ココアって落ち着くよな、家で飲むココアには安定剤は入っていないがコンビニやスーパーで売っているものには入っている事を思い出した。
(店でのココアには入っているのだろうか)
入っていようが、なかろうが落ち着く事には変わりない。心を落ち着かすにはいいチョイスだな。