九条蒼生男目線〈古民家
車を走らせて、辿り着いたのは古民家をリフォームしている感じのこじゃれたカフェだ。いかにも女性がすきそうな雰囲気の中に入るのは少し勇気がいる。それも男二人に、雰囲気に似合わない女の三人、注目を浴びそうだ。
「大丈夫? ここ段差あるから気をつけて」
──コクン
ヒスはそう言うと、手を差し出しサポートする。杖があるが、一応転ばないように念の為にだろう。私は運転の疲れでそれどころではなかった。こういう所にヒスと私の差がうまれているのかもしれない。
「兄さんもお疲れ、ここで休憩しよう」
「ああ……」
少し困ったふうに微笑むと、ヒスが気づいて、会話を続けようとする。女のサポートを自分から提案したのに、すんなりとこなすヒスは余裕の表情で告げてきた。
「いい所でしょ、お気に入りの場所なんだ」
「こんな所を知っているなんて驚いたな」
本当は来た事あるんじゃないか、と言わんばかりの視線を投げると少し委縮した。その様子を見つめながら、来た事がない、なんて嘘をついていた事実を知る事になる。私の方から口を出そうとしたが、それより先にヒスの言い訳がさく裂した。
「色々な所に遊びに行くからさ、たまたま知ってたんだよ」
「本当か?」
「嘘つくと思う?」
「はぁ……さっきまで嘘をついていただろう?」
たまたま知ってた、か。私と会う前のヒスがどんな環境にいたのかは分からない。行動を監視していたとしてでも自分の本当の姿を出しているとは考えにくいからだ。行動の一部は気づかれないように動いていたんだと思う。
正直、言い訳にしか過ぎない。そしてこの言い訳も嘘の可能性が高い。たまたまこんな店にたどり着くか? 常連とかじゃないだろうな、まさか。
「いらっしゃいませって、ヒスさんじゃない」
「ミドリさん久しぶり~」
「余計男前になったわね、元気だった?」
「元気だよ、個室ないかな」
「あるわよ、ヒスさんの頼みだもの」
どこからどう見ても「常連」だな。何度も通っているのか、ここまで店側の人間と仲良くなるとかヒスらしいと言えば、らしい。こむ話もあるだろうから、と気を遣おうとしたが、ヒスは手を振って、もう一人の店員の後をついていく。私達二人も顔を見合わせながら、ついて行った。