突拍子のない返答
さっき来たばかりなのに、また来るのっていうのも失礼かしら。自分の発言でそう思う所もあったが、岬の言葉で気が楽になるなんて思わなかった。
「俺の用事なんで、気にしなくていいですよ」
「じゃあ、自室に帰っていいかしら」
「それは困ります」
ただついていくだけなのに、何が困るのよ、と言おうとしたが、言葉をのんだ。そんなしょうもない事で一々話をするのも面倒だし、時間の無駄と思えたから。
本当、この男と一緒にいると調子が狂う、人をイラつかせる才能でもあるんじゃないかと思ってしまった。本人に悪気はないだろうけど、どうも無理。どこがどう受け付けないのか自分でも分からないけど、言葉で説明出来たら、簡単なのに、それさえも出来ない感覚。
同じ時間を共有するなんてもってのほか、なんだろうか、嫌な予感がする。
意を決して聞いてみる事にした。
「私はついていくだけでしょう、何を困るの」
「副社長に何故、機密資料を見せたのか分かりますか?」
「社長の指示かしらね」
「いいえ」
「じゃあ、何よ」
黒いスーツを見せつけるようにして、体で身を屈ます岬、私より背が高いのを自慢しているみたい。視線を合わしたくないし、近づきたくもないのに、何故だか足が動かない、またこの感覚。空気が黒くなってゆく感じ。
「俺の趣味ですよ」
そう答えると、突拍子のない答えが返ってきた。私は口をあんぐり開けながら、彼を見つめた。
「なんつー顔してんすか」
私は自分の仕事と調べもので手一杯だ。ましてや敵が掴んでいる情報を横流しする訳が知りたい。と言っても、私は裏では敵だけど、表では一応、味方の振りをしているから、巻き込まれるのも仕方ないかもしれない。
でもいくら立場があると言っても、私を巻き込もうとするなんて、その度胸だけは褒めてあげる。
「貴方が変な事、言うからよ」
自分の誘惑に負けてしまった自分を責める。どうせロクな答えなど返ってこないと思っていたから。岬との関係がより深くなっていくなんて想像する事も、予測する事も出来ない私がいた。