苦手なタイプの男
結局、岬と一緒に行く事になった。私に頼んでおいて、急に自分もついていくだなんて、何をどうしたいのこの男は。さっさと向かい渡すだけでいいだろうと考えていたのに、余計な時間がかかりそうな予感。
「頼んでおいてすみません、こちらも仕事が片付いたので」
「いいのよ、もしかして待ってたの?」
「ははっ、バレましたか」
「そりゃ、あんな驚かし方するとね、待ちぼうけにならなくてよかったわね」
少し嫌みと皮肉を混ぜてみた。なんだかこの男に振り回されているような感じがして、気分が悪いから、子供の悪戯と同じようなレベルよ。まっすぐ言葉を受け取るか、真意に気づくかは岬次第だけど……
先に歩いていた私の横に並び、歩幅を合わした。それが余計気にいらない。まぁ、本人にどうこう言うつもりはないけど、心の中では罵倒してもいいでしょ。それぐらいは許されるわよね。ピッタリとくっつきそうな距離を保つ岬。一応女性なのよ、廊下が狭い訳でもないのに、どうしてくっついて来る訳?
「副社長、どうしました?」
「……くっつきすぎよ」
ククッと笑いを堪えている岬、何が可笑しいのか説明してもらいたい衝動に駆られるけど、副社長としての私があるから、プライベートの自分を出すつもりはない。岬は引き出そうとしてくるかもしれないけどね。
(調子、狂う)
まるでおもちゃにされているみたい、基本、振り回される事がないからどうしたらいいのか分からないのが本音でもある。こういう時、お父様ならどうするのかしら、と考えてみるが、性格が違うのだから対応も違って当たり前と答えに行き着く。溜息をはきたくないのに、溜息が止まらない。
「溜息ばかりついていると幸せが逃げていきますよ」
「誰のせい……」
「え」
「なんでもないわ、急ぎましょう」
言葉を濁すと時計を指さし、言った。普段の父なら仕事の最中なのかもしれないけれど、今は違う。無理して働いてなければ、の話だけど。岬はそんな事もつゆ知らず、首を傾げる。
「まだ仕事中でしょう、どうして急ぐのですか?」
「この時間に行くのは失礼にあたるでしょう、そんな事も分からないの?」
「でも……」
「でもも、しかしもない」
少しイラつきながら、強めの口調で言うと、岬はまた首を傾げた。チラリと岬を見ると、バチッと視線が合って気まずい。正直、あまりかかわりたくないタイプなのよ、こういう何考えているのか分からないタイプの男って、他の女性は知らないけど、魅力的に映る人間もいるかもしれない、でも私は違う。
短い距離が、いつもより長く感じるのはこいつが原因だろう。