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自己嫌悪と不信感


 ドクン──


 心臓の奥から動揺と共に音が流れてきた。お父様は色々な視野で調べている事が分かった。人間の体内や細胞を変異させ「イシス」として作ろうとしている事も理解してしまった。私が自分の体にイシスを注入しようと考えている事は内緒にしとかなくてはいけない。


 (さすが親子ね、考える事が同じ)


 しかし、どうして岬はこの重大な報告書を私に見てほしいと思ったのだろうか。これはどこからどう見ても「機密情報」だ。いくら副社長という肩書を持っていても、お父様からしたら駒の一つにしか過ぎない。


 そしてこんな大事な頼み事をしている自体で、岬がどれだけ信用を得ているのかも分かった。しかし、先ほどの岬の瞳を思い出すと、私達でどうにかなるような、言う事を聞くような存在に思えない。多分だろうけど、私達の一歩、二歩先の事を予測しての行動だと思う。


 (……もしかして試されている?)


 私が岬の事を調べるのは簡単ではある。しかしお父様がかんでいるなら話は別。多分だけどお父様だけじゃないと思うのよね。表ではお父様の手足になっている可能性は高い、しかし、それはあくまで表の顔だ。裏がありそうな人間だと直感がそう呟き、私は机の上に資料を置いた。


 (中身を見ていない前提でいこうか……しかし岬が告げ口をしたらどうする?)


 本来ならば娘の私に告げるはずだ、それがないと言う事は、疑われている?


 (とりあえず考えてもダメね、時間の無駄。とりあえず渡しに行こう)


 岬が告げ口しても、岬の立場を考え言うか言わまいか悩んだと言えばいい、変に誤魔化しても、余計怪しまれるし、岬の思うつぼのような気がする。しかし、お父様もよくあんな人間に手を出したわね。私なら、怖くて無理だわ。


 人をおもちゃとして扱っている私でさえ、岬の闇は広いと感じた。ううん、だからこそ分かるのかもしれない。口角のあげ方、目が笑っていなくても、口角を上げる事で人間は錯覚をしてしまう心理をよくついてる。


 私と同じタイプの人間かもしれないけど、雰囲気が空気が只者じゃなかった。


 「イシス」の事を考えながら、自分がこれからどんな行動をすべきかを悩みながら、考える。下手な真似は出来ない。敵か味方か分からない人物が増えてしまったのだから。私が気づいていないだけで、複数岬のような人間がこの会社に潜んでいるのかもしれない。


 私は自分のやり方で人間を再生してみせる、どんな手段を使ってでも、それが人、一人の人生を狂わす結果になったとしても、汚名はいくらでも被る。


 「私のしている事は犯罪だものね」


 人をおもちゃに使い、たった一人の人間の為に生きている人間を実験台にしているのだ。命を軽んじていると言われても反論出来ない。


 「重みは充分理解しているのだけどね」


 茶封筒に全ての資料を順番通りにしまい、糸で閉じていく。ボタンがついている部分に糸をくるくるまくと、何ごともなかったかのように、私が見ていない、確認していなかった前の状態に戻った。


 自分の中だけで留めておけたら、どんなに楽か──

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