九条蒼生≪女視点
すれ違うお父様を目で追うと、少し顔色が悪いように思えた。いつものお父様ならもっと発言をしているし、覇気がある。隠すのが上手なはずなのに、そういう部分を見せるなんて、らしくないと感じる。その時の私はお父様の体が悲鳴をあげている事に気づけなかったの。
「大丈夫ですか?」
別室で休んでいるであろうお父様の元へいく。きちんとノックをして相手に失礼がないように声かけもして、返事がきたらドアを開ける。よくきちんとそういうところはちゃんとしろと言われてきたから、子供の頃から、その癖があるの。
「入りなさい」
「はい」
やはり声のトーンがいつもと違う、ずっとお父様の傍でいたからすぐに分かった。何かあったのだろうか、悩みも基本持たない自信家だから。私は少し考え、間を置いてドアを開けた。勿論ノックしてね。
「入ります、お父様」
「どうした?」
「顔色が悪いようですが……」
そう言うと、ふっと笑ったかと思うと、少し肩を落とした。一体、何があったのだろう。
「私も年だな……お前は気にしなくていい」
「……」
「心配するな、大丈夫だ」
私が心配している? お父様を? 一体何を言っているのだろう。そりゃあ気になるのはある、だけどそれが心配に結びつくのかというと微妙な所。自分では気づかない内に、本当に心配しているのかもしれない。自覚全くないけど。
「体調よくないのなら、安静にしてください。後は私がしておきます」
「ありがとう」
ありがとうなんて言葉、初めて聞いた。今まで一度も言われた事がなかったから、驚いた。私の目の前にいるのは本当にお父様なのだろうか、と疑ってしまいそうになる。私はそう言うと、無言で部屋を出た。感じた事のない感情を抱きながら。