強烈な印象
「大丈夫ですか?」
自分の咄嗟の行動に驚きながら、女に問いかける。女は頷くと、少し顔を赤らめているようだ。黒髪から覗く綺麗な瞳が印象的だった。まっすぐで純粋な目をしている。なんて綺麗なのだろうかと、見惚れてしまうくらいに──
「僕の出番とられちゃったね、兄さん、大胆」
「茶化すな」
「はいはい」
ヒスも動こうとしたって事は、考える前に体が動いたんだな。何故、そんなふうになったのか分からない、答えも出てこない、今は深く考えないでおこう。とりあえず女は話す事が出来ないみたいだ。メモ帳とペンを持っている事を聞くと、再び頷く。どこか近くに喫茶店でもあればいいのだが、そう考えてると、ヒスが提案してきた。
「この近くにいい店があるんだ、個室だから安心して、とりあえず状況を聞かないと何があったのか分からないから話してくれないかな?」
コクリ──
「とりあえずそこでなら筆談できると思う」
にっこりと女に話すと女は何度も頷いた、そこで違和感を感じたのは言うまでもない。何かあったような感じなのに、初対面の男二人についてくるとか、警戒心なさすぎだろ……箱入り娘だった可能性も考えたが、こんなふうにはならないと行き着いた。
止めるべきか考えたのだが、二人は行く気満々のようで、止める時間も与えてくれなかった。ヒスってこんな強引なところあっただろうかと不思議にも思えた。目に映る全ての光景を見ていると、こちらが警戒してしまいそうになる。
「まぁいいか……」
下心なんてないだろう、あったとしても私が阻止すればいい話だし、複雑に考えすぎるのはやめよう。とりあえず様子を見ながら、話でも聞くか。
「しかし……」
「何? 兄さん」
「いや」
車で運転してる時にも思ったが、初めて来たはずの場所なのに、どうしてこんな土地勘があるのかと聞きたくなったが、今は非常事態だ。それはおいおい後で聞く事にすればいい話だ。私達は彼女をサポートしながら車に乗せた。勿論後部座席だ、広いし、せまっくるしくもないだろう。
運転は相変わらず私、横にはヒスがいる。私の体調を考えて車を止めたのに、女の存在でかき消され、再び、運転するのかと考えてしまう。少しだけでもいい、休ませてほしかった。溜息を吐くとヒスがドリンクを手渡し言った。
「ごめんね、兄さん。もうちょい頑張って」
「気にするな」
彼女の存在が強烈すぎて体調が悪かった事も少し前まで忘れていたのは事実だから、そう言うしかなかった。