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黒い女

 「あんなところに女の人がいるよ」

 「……そうだな」

 「怪我しているみたいだ!! 兄さん、話を聞いてみようよ」

 「……」


 ゆらりと揺れる黒髪が濡れている、雨なんて降っていないのに、それに寒気を感じてしまうのは、本能的に危ないと危険信号を出しているからだろう。私は何も言えなかった。自分の気のせいで片付けようとしてみる、きっと何か事情があったのだろう、困っているかもしれない。


 ここはヒスの言う通り、話を聞くべきだろう。こういうところ、ヒスは純粋な部分がある。権力者には牙を剥くが、困っている人や傷ついている人をほっとけない部分があるのも、理解していた。それは父さんの報告書で知っていた情報だから。


 でも、得体のしれない女、見るからにヤバそうな存在に自分から近づいていく事が出来るなんて……私には無理だと思った。


 「兄さん、止まろう」

 「ああ」


 頑なになれば言う事を聞かなくなるのも悪い癖であり、いい部分だ。しかし、時と場合がある。ほらみろ、他の車は皆スルーしている。だからこそ、余計に止まるしかなかった。自分もどこまでお人よしなのだろうかと疑いたくなる。危険を感じているのに、少しの可能性にかけてみる事にしたんだ。


 その行動が正解か不正解かは分からないけど──


 車を止めると、ドアを開け外に出た、何時間ぶりだろうか、空気を少し吸い込むと美味しく感じた。

ヒスが急かすように駆け走り行動を起こすと、つられて自分も合わせていた。私達の目の前には先ほどの女が突っ立っている。黒い服とロングスカートを履いているが、布から覗く手と足は右手と左足しかない。その姿を見ると、ドクンと心臓が脈を打ち、少し息があがった。


 初対面なのに、何処かで会った事があるような「懐かしさ」があるのだ。私は自分の記憶を辿りながら思い出そうと試みる、しかし、いっこうに浮かんでこない。


 「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」


 ヒスの声で我に返り、二人の様子を傍観している、冷たく見えるかもしれないが、どう接したらいいのか分からない。ただヒスの後ろで突っ立って、女の返答を待つ事しか出来なかった。


 「……」


 女は何のしゃべらない、そのかわりメモを出してきた。何度も何度も使用した形跡のある古い紙。そのメモをヒスは受け取り、目を通す、そして私に差し出してきた。


 ──私は話す事が出来ません


 ゴクリと唾を飲み込むと、ふいに女がよろけそうになった。無意識だった、近くにいたヒスよりも早く彼女を抱きかかえたのだ。自分でも何故、そうしたか分からずに、流れに身を任せてみる。


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