大きな前進
「自分の中の答えは見つかった?」
部屋に入りコートをかけると、ヒスが問いかけてきた。私はゆっくりと向き合いながら、口を動かす。「もう大丈夫だ」と……声を出さずにヒスがあの時したように唇の動きだけで返答した。私はおもむろに部屋の角に設置されてある監視カメラに手を伸ばす。自分の身長と手の長さで届くと思ったのだが、なかなか届かない。すると椅子を持ってきてくれた。
「どうするつもり?」
「……工具を持ってこい」
それだけ伝えると、ヒスは口角をひっそりとあげながら、取りに行った。ガサゴソと探しているように演出し、工具入れを持ってきた。この家に本来は工具なんてない。ヒスの考えだと、きっと私が決断を下す時に必要になるだろうと思い、隠し持っているだろうと考え踏んでいたからだ。案の定当たりだった。こういう用意のいい所は父さんにそっくりだなと思い、特殊な工具達で強固にされてある監視カメラを淡々と外していく。
プツンと全ての監視カメラを片付け、ゴミとして纏める。ふうと、肩をおろしながら、椅子から降りるとヒスは鋭い目つきで見た事もない表情で言葉を創造していく。
「僕達が脅威になるから監視カメラをつけていたのに、取り外すなんて大胆な事したね。僕と兄さんを引き合わした父さんの負けかな」
「それがお前の本性か?」
「うーん、一部である事には変わりないね、それより兄さんの考えが聞きたい。盗聴器も全て取り外したし、もう大丈夫だよ」
「!! 盗聴器なんてあったのか」
本来の自分の口調で話すのは久しぶりだ。つきものが落ちたようで凄く気楽に感じる。それより驚いたのが盗聴器も仕掛けられていた事だった。監視カメラがあったのに、どうやって見つけたのかそれは聞かない事にしておく、嫌な予感がするから。
「父さんは抜かりないよ、兄さんが動く可能性があるって思ってたんじゃない? ほら、念には念をってやつ」
「しかし、お前よく気づかれずに見つけれたな」
「ヒントをくれてたからね、そんな事より父さんからの伝言」
一つのメモを差し出され、それを受け取る。メモには走り書きで「楽しませろ」と一言だけ書かれてあった。父さんは全て見越していたんだ、そしてヒスを誘発するように仕向け、私を試してきた。引き合わせたのが父さんの負けだと言うヒスとは反対に、私達の方が負けてるとしか思えない。
本当の自由を取り戻すのは「此処」から──