やられた分以上やりかえす
「んんっ……」
「あはは」
縫い付けた糸のせいで言葉を発する事が出来ない。そんな無様な姿を見ていると笑いが込み上げてくる。最初は我慢していたのに、芋虫のようにジタバタ動くから情けない人間だ事、と思いながら声を発していた。
「貴方最高ね、傑作品だわ」
この男は立場がある人間。裏と表の表情を使い分けながら演技をしている奴。自分より有能な人が現れるとターゲットとして潰しにかかる。そう……私の弟に手を出し、人生を狂わした張本人だった。姿なんてどうでもいい、本来の姿と今の姿はかけ離れているから、胸の名前の刺繍で気づいたのよ。
「あんただったとは驚きね、あの時はよくも……」
「うぐう」
恨みを放出するかのように足で男の腹を思いきり蹴り上げた。私、女だけど強い方なのよ。それは貴方も知っているでしょう? カタカタ震える男の様子を見ていると、もっと地獄を味合わせたくなってくる。
「ねぇあんた。今日の獲物はあんたって決めてるの、覚悟はいいわよね?」
ねぇどんな表情が見える?
ねぇどんな苦しみを味わってる?
屈辱? それとも憎しみ? はたまた恐怖かしら。
下劣な笑い声をしまい、微笑みを出す。そうして胸にしまい込んでおいたナイフを掴み、男の右腕にグサリと刃を突き立てる。もう人間なんて呼べない姿なのに、まだ痛みを感じるみたいね。まぁ、そうか煩い口を縫っている時でも変な声ばかり出していたものね。私が抵抗すると、唇を落とす事になるわよ、と助言すると諦めたように項垂れて諦めた様子だった。
「うぐぐ」
「痛くないわよね、あんたはもう人間じゃないんだから。私が私のコレクションをどう扱おうが自由じゃない?」
返答は返ってこない。口は塞がれていても、喉は生きているから意思表示くらいは出来るでしょうに。それもやめるなんて、美しくないわ。もっと乱れて、狂って、壊れていけばいいのよ──
「他人にしたようにね」
弟と言っても実の弟ではない。私の事を姉さんと慕ってくれていた可愛らしい子。大学の時からひょんな事から縁があって、塞ぎ込むまで明るくて優しい子だった。一人の男が現れるまでは……
鋭利な刃物が肉を貫き、壁と私の顔を赤く染め上げていく。唇にもついた男の汚い血潮を舐めとると、ナイフにトクトクと血を染み込ませる。その光景が美しくて、私も気がふれてしまいそうだった。
「いいえ、もう気がふれているのかもしれないわね」
呟きは地響きを作り上げ、黒い感情を創り出していく。明を助ける為だから──そう自分に言い聞かせて……