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天使な私


 コツコツと足音が響く中で過去の自分を思い出しながら未来へと加速していく。私はフッと微笑みながらあの時の記憶を手放し、悪魔になろうとした。白い戸棚を開けると、赤い装飾がされているナイフが飾られている。儀式の時に使う私のお気に入りのものだ。


 「さぁ、今日はどいつを狩ろうかしら」


 彼を助ける為にはイシスが必要、そして血を吸わせてもっと真っ赤な刃物へと進化させていかなければならない。恐怖と嗚咽の旋律を奏でながら滅ぼしていくのは、心地がいい。もう後戻りは出来ない、したくない。自分で決意した事だから──


 「た……すけ」

 「ふふっ」

 

 ひん死状態でも助けを求める事が出来るなんて人間の生命力には驚かされてばかり。だからこそ複数の血を浴びる事でイシスが作られていくのだろうとも考えている。私自身が『イシス』になれば一番いい。人間のサンプルは実例としてないけれど、それをクリアする為に生きているようなものだもの。


 うめき声と血の匂い、そして薬品の匂いが部屋中を満たしていく。私の闇が満ちるようにしっとりと。今日の獲物を決めた私は、ゆっくりと近づいていく。先ほどから助けを求めている男にする事にしよう。


 項垂れた体を動かそうとするけど、何も出来ない男に矛先を向ける。微かな微笑みが恐怖を煽るのだろうか。男はアピールした事を失態と思ったのか急に口を紡ぐ。


 「もう遅いわよ、今更廃人の振りをしても無駄。他のガラクタは使いものにならないだろうけど、貴方なら楽しませてくれそうね」

 「……」


 私は腰を屈めると、男の顔を見下しながら、頬をスッと刃物で切り裂く。


 「ぎゃぁあああ」

 

 痛みに耐えきれないのか、少し深く傷をつけてしまったのか失神した振りをしている事も忘れてジタバタと藻掻きだした。本当に傑作品ね、凄く素敵よ。恍惚に酔いしれる私の頭の中はこの男のどの部位から切断してやろうかと子供がお遊びをするように、楽しんでいる。


 そこには(あき)の為にこの儀式をしている事など頭から抜けている。自分の快楽と優越感の為に心を満たしている他ならない。


 「うるさい、口ね。そうだわ、面白いものがあるの」


 子供の頃から愛用している特殊な針で作られている裁縫セットを取り出し、針に糸を通す。慣れた様子で黙々と作業していると、カタカタと武者震いの音が耳に障る。


 「いい子だから、怖がらなくていいのよ。今楽にしてあげる」


 そう呟くと針を男の唇目掛けて突き刺した。静寂の中で聞こえる嗚咽声に反応するように、するすると煩い唇を縫っていく。


 「ほら、素敵」


 クスッと微笑む私は悪魔なのだろうか──自分では天使だと思うんだけど。

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