九条碧生《女視点
いつものように窓から空を見つめている。遠くを見ても自分は何も変わらないのに、何かを願うように祈るしかなかった。小さいころの私は純粋だったのかもしれない。おとぎ話を信じてやまなかったあの頃の私。今の自分はどうなんだろうかとかそういう考えはいつの間にか捨て去った。
涙と共に……
愛と共に……
私のコレクションが輝いて笑っているように見えた。実際は助けてくれとまるで悲鳴をあげているかの表情。それなのにどういう訳だか錯覚してしまう。
ガラスの保管庫に保護されている人間だったもの。腐らないように、新鮮さを失わないように冷却している、氷漬けより、少しゆるい感じ。私達の会社で結成されている研究団体─メリア─その中で研究されてきたこの機械と液体。内臓をくりだした人間をそのままの状態で鮮度を落とす事なく守る事が出来る。
ガラスに手をついて中身に話かける自分がいる。
「もう10年よ、そろそろ目を覚ましなさいよ……」
普通内臓をくりぬいた人間を保護しているのに、たった一人だけ違う人がいる。健全な状態で眠りについている私の過去の恋人だったそれ。
あの頃と何も変わらない寝顔のような顔、スラッとしていて、頬に十字架のマークがある。タトゥーに近いかもしれない。顔にタトゥーがあるなんて変わっているわよね、それも十字架。だけど、彼の場合は仕方なかったのかもしれない。
あの人達からは逃げれないのだから。
小さくため息を吐くと、私らしくなく涙が零れた。裏でこんな事しているのに、泣いているなんて笑っちゃうわよね。それでも、それでも、止めたくなかったのよ。
春風が吹き荒れる桜の下で貴方と出会った。当時はただただ憧れていただけの存在だったのに、いつからだろう。自分の中の特別な人へと変わっていった。あの頃の貴方は何にも縛られず、自由に生きていた。それが羨ましくも素敵だった。
(ねぇ──私は貴方の特別だった?)
口にしたら全てが崩れてしまいそうだから、あえて口にはしない。自分はそういうもの望んじゃダメだって分かっているから。貴方とは違う、貴方みたいにはなれない。
(私のせいよね)
貴方に憧れを抱かなければよかったと今は思うわ。あの頃は子供で自分の気持ちに正直でありたかった。だから我儘な子だったのかもしれない、貴方からも父からも見て……ね。
(こんな傷なかったのに、綺麗な顔に十字架なんて皮肉よ)
二度と私が道を間違えないように、踏み外さないようにする為の印。私には手に入らない、でも蓮は望めば手に入れれる。
その現実が悲しかった。
「私もまだ人間の心を持っているのね」