解釈は自分の手で
スマホの向こう側からは静かな父の声が聞こえる。ゆっくりと話を始める彼に対して、不信感を抱きながら荒くなっていた呼吸を整えていく。双子の弟がいるなんて何も知らされていない、自分だけが知らなかったのだろうかと思うと、蚊帳の外に自分だけが取り残されたような気がした。
「……話はヒスから聞いたようだな」
「どういう事ですか? 弟の事など何も聞いていません」
「そうだろうな、知る必要もないと判断して言わなかったからな」
知る必要もない? どうして? 血の繋がった弟の存在を隠して私を騙すつもりだったというのか。妹はいるが、殆ど面識がない。名前は蓮と言うらしい。しかし蓮以外にいるとは思わなかった。殆ど関わる事のない妹、そして存在を初めて知る事になった弟。それも私と双子だなんて、何故気づかなかったのかと悔やんでしまう。
「どういう意味ですか?」
どうしても父の言葉に納得が出来ない私は、率直に聞く事にした。遠まわしに聞いても、曖昧に濁すだけだと感じたからだ。少しでも隙があればスルリと私の言葉の刃をすり抜ける、それが私の父だった。
「お前らしくないな、素直に問いかけてくるとは、驚きだ」
そう言うとポツリと「よかったみたいだな」と言葉を落とした。私に聞こえないように小声で呟いているのと、雑音が織り交ざってよく聞き取れなかった。
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない。こちらの事だ」
「……ならいいのですが」
少し話がずれてきたみたいだ。私から逸らしたが、何故だろうか、父の術中にはまっているような気がして、嫌だった。私がもう一度話を戻そうとすると、思いの他、私の心を透視しているように、言った。
「ヒスは今のお前にとって重要な人物だ。兄弟としてではなく、人としてな」
「重要ですか……」
「お前が過去を捨てる事が出来たから、ヒスをそちらに向かわした。お前の事だ、ポーカーフェイス気取りをしてでも自分を保つのが難しいだろう。少しずつ、私達の生きている環境、いや世界に馴染んでいけばいいだけの事。支えになるだろう。お前にとってもヒスにとっても……な」
「お父様が何を考えているのか分かりません」
「今は何も知る必要もないだろう、時がくればお前が一番理解しているだろうからな」
「それまで、沈黙を守れと言うのですか?」
ゴクリと唾を飲み込みながら、食らいつくような口調で噛みつく。そんな私の反抗を楽しんでいるように鼻で笑うと静かに言った。
「お前の思うように受け取ればいい」
そして静かに通話が切れた。私とヒスを残して、父は去っていったのだった。