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私はいつでも正しい

 泣き虫はいつまでたっても泣き虫。少女は昔から人間の闇を見てきた。普通の環境なら受ける事などない重圧、恐れる事のない現実、涙する事のない苦しみ、それを幼少のころに全て体と心で受け止めてしまった。


 耐えれるはずなどなかったはずだ。彼女は狂いそうな自分を抑える為に暗示をかけた。


 「大丈夫、私はまだ……大丈夫」


 鏡に向かいながら感情の欠落を感じてしまう程の(やつ)れ方だった。大人達は彼女の変化に少しずつ気づきながらも自分を守る事を選択したのだ。


 たった一人の犠牲で成り立つ世界──認めてはいけない日常。

 

 何が正しいのか分からなくなった彼女は泣く事も笑う事も、人間として生きる事も諦め『仮面』をつけた。それが自分を守る唯一の手段だったのだから。幼い心は悲鳴をあげながら、崩壊の道を歩みだすのであった。


 模倣犯になる事しかしらない、誰かの真似をする事で感情を取り戻していったように見えのだが、その全ては偽りで固められた人物像。支配される事が当たり前、自分の人生を父に委ねるのが当たり前。その全ての土台を作り上げたのは紛れもない母親だ。


 彼女の母親はいつもいつも完璧を求めた。テストでも人間としても完璧を求めた。求める表情をしないとそのあとにお仕置きが待っている。


 最初は怯えていた彼女もいつしかそれが当たり前になっていく。心が壊れていく程に、体に傷を抱えるごとに。それが全てで、受け止めきれない現実から逃げるのは夢の中だけだ。


 いつか自分を助けてくれる人が現れるかもしれない、きっと誰かは味方になってくれる。根拠のない未来を見つめながらも、心を閉ざした。


 祖父と祖母は優しい人だった、そうあの日までは。彼女の母親が二人を殺害しようと企んでいたその瞬間までは、彼女にとって救世主なはずだった。


 「どうして……」


 彼女を守る為に祖父はいつも抱きしめ、蹴られていた。立場のあるはずなのに偉ぶる事のない祖父を尊敬もしていた、はずだった。


 母親が刃物を握る、鬼に憑りつかれたようにうなり声をあげて、二人に刃を振り下ろしたのだ。見えるのは血潮、彼女の前には切り裂かれた皮膚から命が零れている。


 「やだ……」


 幸い軽傷で済んだが、その物事により彼女を守る者は誰もいなくなった。優しかった二人も彼女に母親の幻影を見て、八つ当たりをするように変化してしまったのだ。


 「ばかみたい」


 少しでも信じようとした自分だけが取り残されて灰になる。頬には悲しみを捨てるように一滴の涙が零れた。


 「私は悪くない」


 ──そうよ、私はいつでも正しいのだから。

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