悪魔にでも鬼にでも……
私にだって出来るわ。あの家の血筋を引き継いでいるのは蓮だけじゃないのだから。全てに劣っている妹とは違うの、出来がね。そう自分自身に言い聞かせる事で自信へと変えていく方法しか知らなかった。こういう時、身近な人間と比べると安心するように出来ているのかもしれないわね。
自傷気味に笑う事でこんな気持ちを抱く事を否定していたのよ。自分は人間なんかじゃない、父様に選ばれた唯一の人形なんだと、逃げていたの。
比較されるのは蓮も私も同じ。優秀な姉がいると蓮が見下されれば、愛嬌のある妹と言われ続けられる。冷酷な私にとったら痛いセリフ。それはあの子も同じようでお互いがいつの間にかすれ違ったり、対立してしまったり、いつしかおじい様と父様との派閥に広がってしまっている。
本当は普通の『姉妹』として関わりたかった。でもね、私達は全て選択肢を違えてしまったの、いい意味でも悪い意味でも。だからこれも運命なんだと思っているわ。
(今回は私にとってチャンスでもあるし、リスクでもある。私個人の判断でしていいものか分からない……仕方ないわね)
戦いに負けを認めるようにスマホを取り出し、父様に連絡を入れる。私の考えで指示をしてもいいかどうかの許可を取る為に。「お前に任せる」と言われているけど、この会社は父様の所有物。決して私が私物化していいものじゃない。だから最低限の確認は必須。
「お久しぶりですわ、お父様」
会話を楽しむように演技をしている自分が鏡に映ると、すこしだけ醜い生き物のように思えて、苦虫を噛んだ。それでも声のトーンを落とさないのは、環境のおかげかもしれない。そう思うと、自分は大丈夫なんだと安心する事が出来る。
「ええ、その件でお電話しましたの。私が動かしてもよろしいですか?」
私の言葉を聞いて父様はくくっと笑い出し「本当にお前は律儀な奴だ」と楽しそう。その声を聞くと機嫌をとれている事の確認が出来るのと、反対に見えない闇に包まれた恐怖を感じてしまう。私と父様は違う。根本的に私は真似事をしているただのコピーだが、父様は本物。敵うはずがない。
「わかりました、進めておきます」
要件だけ伝えると通話ボタンが切れるのを待ち、切れた途端どっと肩の力が抜けて、椅子にもたれかかった。いつ話してもあの威圧感だけはなかなか慣れない。私はまだ出来損ない、だからこそ闇を見れていない。父様の理想には程遠い存在。
どんな形でもいい、自分の存在を認めてもらえれるのなら、悪魔にだって鬼にだってなれるの。
(私はそういう人間だもの)