永遠に
お茶のいい匂いが部屋に充満している。私は彼の警戒心を解く為に自分のコップへと手を伸ばし、唇へと運んでいく。コクリと飲む私の姿を見て岬も同じように飲んだ。ゆっくりゆっくりと時間をかけて彼の体の自由を奪おうとしているなんて考えもしないでしょうね。
勿論、私のお茶には何の細工もない、ただの飲み物。しかし彼のお茶には私達が発明した痺れ薬を仕込ませている。今まで苦みを感じていたものを改良し無味無臭のモノへと作り替えたのだから、気付くはずがない。
微笑んでいる目元、そしてコップで隠された口。私の表情は醜く変形しているかもしれない。何故かって?目元は微笑んでいるのに、口元には何の感情もないから不気味にしか思えないでしょう。隠れた時にだけ造ろう口元を戻し、彼を観察するの。
「美味しい?」
『はい』
「そうでしょうね、うちの秘書のお茶美味しいから。銘柄を選んだのは私だし。貴方は恵まれているわ」
『副社長がお茶を選んだんですか?』
「そうよ、好きだから」
お茶が好きだからと錯覚させて、本当の言葉の意味は伏せておくのが一番都合がいい。口元を隠していたコップを元の位置に戻そうとする、その時、再び私の口元は微笑みに変わる。自分で自分が嫌になる位に。
「岬くん」
『はい』
「何故ここに呼ばれたのか理解してる?」
『え……と』
「貴方の仕出かした事は関係ないのよ?個人的なお願いがあって呼び出したの、ごめんなさいね」
『そうだったんですか』
自分の不祥事が問題ではないと中々気付かない彼に教えてあげると、固くなっていた表情が緩んだ事に気付く。岬は何も知らない、それが余計に私を苛立たせる。静寂の中でゆっくりと語る言葉達は怪しさを放ちながら、彼の体の中へと入っていく。もうそろそろかしら、と目線を腕時計に落とし確認すると彼にとっての最後の言葉を贈るの。
「貴方の仕事ぶりには感服だわ。これから新しいプロジェクトが始まるの。そして『一人目』が岬、貴方が選ばれた」
もう『くん』呼ばわりなんてしなくていい。もう少しで意識が途切れていくだろうから。演技は終わらした方が彼を地獄へと突き落とせる。くくっと歪んだ笑いを出しながら、私は残りのお茶を飲み干す。
『副……社長?』
「さようなら、私のモノになりなさい永遠に」
人形のように表情を失った彼は二度と口を開く事はなかった。白目をむき、口からは泡を吐いているまるで芸術品のように。
「大丈夫よ、すぐには死なないから」
私達が始末しない限り永遠にそのままなのだから――