呼び出し音
プルルルルルル
プルルルルルル
携帯の呼び出しが聞こえる。
この音は目覚ましではなくて、コールだ。
音が違うし、私自身目覚ましをかける習慣がないので、それしか思いつかないのだ。
今の時代主流は『スマホ』だろう。
しかし、私は『スマホ』を基本使わず『ガラケー』と『タブレット』の二刀流。
スマホ自体、持つとよくズボンのポケットに入れて『洗濯機』で回してしまうから。
画面の大きい『タブレット』ならポケット自体に入らないし、洗濯機で回す事もないだろう。
ガラケーは基本首から下げるし、以前みたいに大惨事になる事はない。
……と思う。
過去の私なら、同じ事を繰り返していますが、今回は対策をしているので同じ事は繰り返すまいと考えている。
考えているだけで、本当に対策になるのか不安な所だが、自分を信じる事しかないので
そこは『ご愛敬』でとしか言えない自分が、歯がゆい。
あれから何時間経っただろうか。
夜中でお酒が入っていて、頭がうまく回転しない。
そんな中で、グラリと地面が歪みながら、私の体を包み込み、飲み込んでゆく。
「頭痛いですね…飲みすぎました…か…」
誰もいない空間で、自分自身に囁きながら、現実世界へと引き戻される。
夢うつつ私の『快楽』はここで終わり、日常が始まるのだ。
プルルルルルル
プルルルルルル
「うるさいですね…本当、何時だと…はぁ」
お酒のせいでいつもの『自分』を失ってしまっていた口調が、元に戻り『通常』の自分になってゆく。
プルルルルル
プルルルルル
「……はいはい」
大きなため息を一つ吐くと息から黒い煙が出ていく。
それは目には見えず『心』で感じる『感情の色』であるのかもしれない。
私以外には見えていない、感じる事も出来ない、そんな存在。
逃げ隠れもしない、どこにも行けない『感情』の渦。
放り投げられていた『ガラケー』を拾い上げ、通話ボタンを押す。
「もしもし…何の御用でしょうか?」
この話し方は日常。私生活でも、仕事でも、どんな場所でも、同じ話し方。
≪いつも距離が遠い…どうして心を見せてくれないの?≫
皆に言われる一言に、傷つく事はない。私の心の中心核を見て、狂わない人間はいないから。
視線を掻い潜るように、本当の自分を隠しながら生きていく方法しか思いつかない。
もうあんなふうに、人を狂わしたくないから、自分の感情を殺すしか方法がないのだ。
最初は悲しみやつらさが多かったのだが、数年、時が経ち、感情の欠落と言えばいいのだろうか。
もう何も感じれない自分がいるのが、今の自分。
「……はい、聞いていますよ?」
ボンヤリと映る部屋の孤独な風景に、より地獄に苛まれる、そんな感覚がする。
居心地のいい感覚。
私の心の感覚。
「……分かりました。今から行きます」
ピッと通話ボタンを切ると、右手を額に添えながら、髪へと移動させていく。
前後に動く手の動きは激しくなり、いつの間にか掻きむしるように変化している。
頭皮に爪を立て、思い切り『ガリッ』と音が響きながら、その快楽にゾクゾク体を震わしている。
頭皮から髪へ、髪から頬へ、そして私の目の前へ移ろいでいく。
私の爪の間を頭皮と血が混ざりながら、染み込んでゆく、不安と共に。