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九条碧生<女視点>

絡みつく視線から逃げようなんて思いも考えもしない。私の前にあるのは繊細かつ重要な物事だった。私は溜息を吐きながら書類に目を通す、この繰り返し。お父様の仕事を代わりに進めていかなくてはいけない。今日は会合の日。この会社の副社長はこの私『九条碧生』だからお父様がさも進めたかのように錯乱させる必要があった。


私自身にはまだ(・・)力も権力も能力も乏しい。成長の過程だと言っているけど、本当は私に仕事を押し付けたいだけなのかもしれない。

「今日のターゲットは岬君かしらね」

光る眼が彼の名前に的を得る。気を緩めてしまうと笑ってしまいそうで、私も人間なんだなって思い知る。


ここは裏組織が集まる団体――会社として形を変え人材を選び犠牲者を選抜する。

「お父様も酷な事をするわね」

いくらおじい様と蓮が邪魔だって、こんなやり方は違う。そう感じるのだけれど、お父様の理想の世界を見てみたいと願う自分もいる。私はいつの間にかこちら(・・・)側の人間になってしまった。蓮は私と違い自分を持っている。意見を言い、自分の信念の為に動き、私達を止める為に敵側へと成り代わった私の大切だった(・・・)妹。


「もう以前みたいに充に会う事も出来ないのね」

唯一の拠り所だった彼の存在に何度も助けられたのを思い出した。少し前までの事だったのに、遠い昔に思えて仕方なかった。


「お嬢様、お決まりですか」

「早いわね」


声をかけてきたのは執事の昇。私の3つ下なのに実績を積み、お父様に気に入られて引き抜かれた優秀な執事でもあり左腕の一人。構成はお父様を中心に右に私、左に昇って感じなのよ。私はどちらかと言うとどんなマイナスも快楽の一つとして考えてしまう異常な性癖を持っているのに対して、昇は真面目一筋のお堅いお坊ちゃまね。


「今日お決めになるように社長から言われていましたよね。俺は回答を貰いに来ただけです」

「分かっているわよ、もう決めたから安心なさい」

「お嬢様にしてはすんなりとお決めになりましたね、今回は誰にしますか?」

「岬――彼が獲物よ」


呆れながらも資料を彼につきつけながら言った。表情を殆ど見せない昇にしてはいい顔をしている。私の答えが気に入ったのかもしれないわね。資料から視線を移し、私を見つめてくる、そんな彼の瞳が美しく感じてしまう自分がいた。


「不服?」

「いいえ、上等です」

「そう、ならどうしてそんな表情しているの?」

「貴女は列記とした社長の娘。遺伝子を引き継いでいるだけあると思いまして」

「失礼な人ね」


そんな会話が少し落ち着くのはどうしてかしら。まるで彼と共犯になったような気がして嫌いじゃない。本来ならお父様も含めて、なのだけど。


――ここには二人の闇しかないの。


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