葛藤
静寂の中で僕と父は向かい合わせに座っている。露宇と再会してから僕の様子が変だと言われたから、面談形式で色々質問されていた。
唯一の友人であり、懐かしい思い出でもあり、彼に影響されてしまったから優しさがにじみ出てしまったのだろうか。
『……お前はいつでも冷酷であるべきだ。それなのに』
父はいたって冷静に僕を見つめている。こんなんじゃ祖父と妹に勝てない、そう思われたみたいだ。
染みついている闇は過去を消し去ろうとしていく。心の中で本当の意味の温もりを捨てた瞬間だった。
「失望などさせません。全ては九条家の為に」
平和な世の中に産まれたはずなのに、この家は過去を引きずっている。昔の立場、金、権力、そして父が背負う汚い世界……。
その世界に沈む事が出来るのは長男の僕だけだろう。蓮はまだ子供であり、純粋さが優先している。その状態で闇を見てしまったなら、あいつはつぶれてしまうだろう。
別に妹を守る為に行動をしている訳ではない。どちらかと言うと昔から続く権力ほしさに実行しているだけ。しかし傍から見ると、守っているようにも見えてしまうだろうな。
『……』
僕の言葉は覚悟を背負ったもの。それは嘘じゃない。きっと父が望むのは過去の友人関係を断ち切り、家の支配下になれと言う事だろう。
それは理解しているが、人間というものはどうも複雑で感情と頭が別。まだついてきてない感覚がする。
言う事は何もないと表現するような父の立ち振る舞いはカリスマそのもの。期待はされているが、少しでも応えれないようなら、切り捨てられる可能性が高い。
(こんなところで終わらす訳にはいかない。どうにかして気を引かせないと)
思うばかりで何をしたらいいのか分からない。今は頭を冷やす時期だろうと冷たく言い放されたその一言が重く、背中に襲い掛かってくる。
僕は分かりました、としか選択肢が用意されていない。無言でいる訳にもいかないから、ここは言う事を聞いた方が安牌だと感じた。
バタンと閉ざされたドアは僕を暗闇に取り残し、父は逃げるように消えていった。
「昔と同じだな……」
フッと苦笑いをすると、今どんな顔で自分がいるのか気になり、部屋の中にある鏡に近寄り、覗き込んだ。
「醜い」
右手で頬を触ると余計実感してしまう。自分に対しての怒りが込みあがり、自分の頬に爪を立て、切り裂いた。
痛みなど感じない、あるのは永遠と広がる無力さと失望。そこに涙なんてありはしないが、僕がまだ幼かったら泣いていたかもしれない。
「僕は……」
呟きは血で消され、床にポタリと流れ落ちた。