二つの脳
血の匂いが好きだ。最初は気にならなかったのに、妹の苦痛に歪む表情を見て、右腕からポタリと流れ出る血潮を見て、ゾクリと快感を覚えたのが最初だった。
――なんて美しいのだろうか。
人間の肉を切り裂くと、あんだけ鮮明な色の液体が出るなんて、凄く魅力的で、芸術そのものだと思うんだが、君達はそう思わないかい?
僕は普通の人だったはずなのに、環境と自分の心の歪みによって、光と闇が入れ替わっているように感じた。止めたくても止めれない、受け入れたくても受け入れ方を知らない僕は、徐々に地獄へと堕ちていく。
当たり前の日常から地獄へと続く道は、崖から落ちるようなスリルを持っていた。最初から谷底に落ちる事はないんだ。徐々に落ちて、最後に叩きつけられる感じ。
その時、ああ、自分は狂っちまったんだな、と自覚するんだけどな、今ではもう慣れて、こんな自分を楽しんでいる訳さ。
僕だけ、その楽しみを知ったままなんて面白くないし、勿体ないだろ?だから俺は蓮にも教えてあげようと思ったんだ。
優しい兄貴だよなぁ?こんな快楽を教えてやろうとしてるんだからよ。
蓮は女だし、力もない。言う事もきかないから、どちらが上で下かを知らしめる為に『調教』をしないといけないと思った訳さ。
その為の少しの『暴力』なんだが、それも時期に慣れていき、心地よくなるから安心しろよ、と言いたい。
まぁ、今の段階で言うのは、全ての計画の崩壊へと繋がるのだから、黙り込むのが得策。徐々に体に慣らして、次第に心を喰らっていく。それってさ、最高じゃないか?
(なんて美しいんだろうな、そして楽しい)
下準備段階で、興奮してるだなんてダメだよなあ。人間ってさ、そういう隙があるから、計画が壊れて『マイナス』な立ち位置になる場合もあるから厄介なんだよ。
得に感情と言うものはな……。
人間にはな『二つの脳』がある。
一つは頭脳。こんなの当たり前に分かるよな?分からなかったら相当ヤバイと思うぞ?
もう一つは何だと思う?意外かもしれないし、納得かもしれないけど。
頭脳とは別に大切なものがあるよな?
――そう、それは感情。
もう一つの『脳』とは『心の脳』だ。
心で動いたら、感情的になる。頭脳で動いたら冷静になれる。一番いいのは頭脳で動く事。感情で動いても何もプラスなんてないと思うぞ?
特にビジネスの場合は、相手に弱さを見せる可能性が高いから、隠す事が一番だ。
それよりももっといい方法があるんだけど、知りたくない?
それはな、心の死を誘導する事だよ。
僕は妹に、心の死ぬ瞬間を味わってもらいたいんだ、それも愛情の一つだろ?