お食事会
水面に揺られながら、慈しむ月夜の中で、暗闇が深く潜り込み、あたしを惑わしてゆく。
あたしも元は真っ白な心、黒を知らずに産まれた生命の一つ。
決められたレールにより、大人達の『策』により、巻き込まれた人間の一人という事。
はじめは、呪った自分の運命に逆らってでも、妹『蓮』と同じ選択肢をしようと考えてた。
蓮とは、約一回り、離れている。あたしにはつかみ取る事の出来なかった、人間としての心の自由を、彼女は、いとも簡単に射止めれたのだ。
あたしには出来なかった。用意された選択肢に、それはなく、ただ崩壊の道を歩むしか残されていなかった。
「あたしには出来なかった、掴みとれなかった」
年齢を重ね、成人した蓮と久しぶりに会う機会があったの。子供の頃に『機密文書』を見せつけて、同じ道を歩ませようとした、あたしを憎しみ、そして捨てた。
お父様が、おじい様に土下座までして、あたしと蓮の二人で食事をする機会を与えてもらった。
本当はプライドなんて必要ないの、捨てる事、簡単な事。認めてしまえばいい、自分の悪を、荒んだ色を……。
――ただ、それだけの事。
目の前に出されてくる豪華ディナーを楽しみながら、歪みながら、あたしの声だけを聴く、蓮。決して、あたしの表情、姿を、確認する事なんてしない。まるで最初からいないように、扱われている自分がなんだか、嬉しい。
同じ選択肢を選びはしなかったのだが、この子は、あたしと対等に向き合える人間。
そして、唯一、あたしの心と体を壊し、殺す事が出来る人間なんだろうと思うの。
目の前の食事なんて、興味がない。あたしが興味あるのは、灰色に染まった蓮自身。あたしは真っ黒で、蓮は灰色。見方によっては、蓮の色は、どんな色にも化けれる『カメレオン』なのかもしれない。
馳せる心を隠すどころか、表に出して、この子に見せつけていく。そんなあたしをスルリと交わし、会話へと誘導しようとしている。
『何を今更、戯言を。あんたの話はつまらない。その唇、縫い付けてやろうか?』
「あはは。いいわよ、縫い付けれるものならしてみなさい。期待してる」
「一々、癇に障る」
その会話が楽しいの、きょうだいみたいで、元通りになっていくみたい。
あたし達は、これがコミュニケーション。そして二人の間に、誰の介入も許さない。
二人っきりのお食事会、用意されたお食事会。
この楽しいひと時が、永遠に続けばいいのに、そう思うあたしが微笑んでいる。
天使であり、悪魔のように……。
壊れていけばいい、あたしもこの子も、もっと深く、もっと猟奇的に。