人間
素敵な音色は、永遠にあたしのもの。蓮はフルフル震えながら、怒りの感情を押し殺そうとしてるのが分かってしまう、手にとるように……。
嵌めたなんて、そんな言葉使わないでほしい、あたしはただ純粋に仲間にしたかっただけ。表はあたししか読んでいない『機密文書』だからこそ、蓮と言う存在が不可欠なのよ。
少しずつ、近づいているその時がくるまで、彼女の心に瞳に、現実を叩きつけて、強く生きていけるようにと、悪者になる事なんて、簡単。
悔しかったら、あたしを憎みなさい、そして恨みなさい、愛情と反対の感情も、深くて、一生蓮の心に残るのだから、それが出来れば問題ない。
あたしって悪い女?それとも性格、最低?
なんて言われてもいいわ。痛くも痒くもないから、あたしはあたしの理想の為に行動するの、そしてアクションを起こす、蓮、あたしが絶滅しそうになった時、貴女があたしの代わりに動けるように、配慮してあげてるのに、気づいてる?
巻き込まれたくなかった、何も知らないままでよかったなんて、そんな甘ちゃんな事、言っちゃダメよ。あたし達は『九条家』の血を取り込んで、生きている。命があるのは、家が存在し、祖先が繋いでくれたものなのだから。
悲観するなら、それ以上に絶望して、壊れちゃいなさいな、その方が、貴女にとって『幸せ』で『楽』な選択だと思うから。
あたしはね、この世界に足を踏み入れすぎた、もう後戻りも、知らないフリも出来ない立ち位置にいる。いわば共犯者に近いのかもしれないね。
だからこそ、あたしとは違う戦略を考え、光と闇のように、正反対な行動が出来るのが事実。
覚えていてほしいの……あたしに出来て、蓮に出来ない事があるように、あたしに出来なくて、蓮に出来る事がある事を。
忘れないでほしいの、敵の立ち位置の、姉『九条 碧生』が存在している事を。
そして、ある意味貴女の味方でもある事を、気づいていないのは子供の蓮くらいよ?
他の親族達は、皆、自分の与えられた『役割』を理解してて、自分の意思を捨てて、守ろうとしているのだから、あたしも、蓮も、そのルールの中で生きていくべきえだと思うの。
『こんなもの見たくなかった……何でおねぇ……』
あら。こんな歪んで、壊れたあたしの事を、お前ではなくおねぇちゃん、なんて呼んでくれるのね。
出してはいけない優しい気持ち、そして蓮も、何かモヤモヤしている感情を抑えてるみたい。
そうやってあたし達は、別々の選択をして、いつか……。
――今だけ、姉でありたい。
あたしは、まだ人間なのかしら……。