二人で一人
パラパラ資料を捲る子供の蓮の表情が少しずつ変化していく。あたしはその事に気付きながらも、心の中で「しめしめ」と思い通りに計画が運ぶように、逃げれないようにしていく。気だるそうにあたしをあしらっていた蓮は、もういない。
簡単に消えた。簡単に染まった。
『な……にこれ』
二分しか与えていないのに、それが何か理解したみたい。まだ14の癖に、子供だと思っていたのに、成長とは早いものなのかもしれない。
「読めたのね」
『……』
言葉に詰まった蓮は、額を抑えながら、資料を握る右手を震わしながら、顔色を変えて恐怖へと堕ちていく。
「二分しか与えてないのに理解したのね。蓮。読んでしまったね。もう逃げれない」
『……これ、裁判記録?』
「読んだら分かるでしょう?そんな事」
『……誰の裁判なのこれ』
「そうねぇ。いうなれば『表に出てはいけない人』のかな」
『……』
「処分する前に、妹の貴女に読ませたくて。ね?素敵でしょ?これで一心同体」
『あたしは何も知らない』
バサッと叩きつける蓮。怒っているみたいね。怖いけど、その表情があたしにとってはご馳走なの。大好物。
「これはね金になる。そして人を簡単に崩壊出来る。権力者が全てを失う『裏の機密』あたし達『姉妹』はこれを読んでしまった」
あたしはおもちゃで遊ぶみたいに、蓮に近づきながら耳元で囁く。
「この情報はあたし達の『脳内』にしかなくなる。書類としても表には何も残らない。その関係者しか知らない内容。あたし達が読んだ事を『あの人達』が知ってしまったら、どうなると思う?」
『……そんなの知らない。あたしには関係ない』
はははっ、と腹を抱え笑ってしまう自分がいる。可笑しくてたまらない。
いつも突っかかってくる蓮が、妹が、ここまで逃げ越しになる。そうよね、中身を見たらどんな内容か『ガキ』でも充分理解出来るだろうからね。
巻き込んでしまえばこちらのもの。そうやって徐々に浸食していき、周りの人間の脳も溶かしていく。あたし一人が『異常者』になれば、それは周りにも伝染する。最高のプレゼント。
「関係ない事ないわよ。これはね『警察』も『マスコミ』も『国』も『県』も必死で手に入れようとする。あんたはね、それに巻き込まれるの……『永遠』にね」
『嵌めたのか』
「さあ?協力者が欲しかっただけよ。あたしが狙われたら、例え命が崩壊しても蓮、貴女がいる。だから敵の目を欺く事は出来るでしょう?」
『……違うだろ。自分が逃げる為に、あたしに押し付ける。いつもだな』
「失礼ねー。おねぇちゃんの事そんなふうに思っていたの?悲しい」
悲しいと言葉では言うが、悲しくなんてない。逆に心は踊っている。長年、この時を待っていてよかったと心底思ったわ。
あたし達『姉妹』は二人で一人。
外れた脳みそのネジをお互いが締め合い、枯れていく。