制限時間二分
コツコツヒールの音を鳴らしながら風樂と獲物の元へと向かう。なんだろう。この居心地の良さ、風が吹きながらあたしの髪を靡かせる。まるで微笑んているあたしのように、同化していく。
風に運ばれながら、過去の事を思い出す。
『機密情報』を巡って蓮と議論をした『あの時』の事を。
(懐かしい……あの時は『まだ』姉妹だった)
あたしは蓮を守らなくちゃいけない。妹と言う存在も、全て隠す。そうして誰にも狙われないようにするの。姉としてではなくて、あたしの欲望の為にね。壊すと言っているのに、守るなんて変だって言われても仕方ないけれど、その裏には隠された言葉があるの。
他の奴らに蓮は渡さない。
他の奴らに壊させない。
あたしが『壊す』の。
ねぇ蓮、あの時の事を覚えている?
あたしは覚えていると『お前』との議論は刺激で、ゾクゾクしていて楽しい。
壊したくなるくらいにね。
時は戻る。過去へと。
フッと微笑むあたしを一人ぼっちにして……。
『碧生、何の用?』
「姉に向かって呼び捨てはないんじゃない?あはは」
『……時間裂いたんだから、簡潔に』
「素直じゃないんだから。はいはい」
あたしと蓮は楽しい遊びをしていた。蓮からすれば遊びではなく『厄介事』なのかもしれないけど、姉に付き合うのって普通よね。得にこの九条家では。あたしが当主になるんだから余計にね。二番手に用はないの。あたしの頭脳の一部になってくれれば、それで充分。満足な訳。
「これ見てみて。いいもの見つけた」
バサッと机の上に叩きつける書類を、蓮に見せつけるように演技をした。目を真ん丸くさせた蓮は、書類に障ろうとする。中身が何かを確認するため。て事は『興味』があると言う証拠。我妹、さすが分かりやすい。
「だめだよ。蓮。14歳の貴女には背負えない内容」
『は?なんであたしに見せたの?』
「中身を読ます訳にはいかないけど『パラパラ』読みならいいよ。速読出来るあんたなら少しは理解出来るんじゃない?制限時間は2分。それ以上はNG」
『……これが何か分からないけど、充分』
「OKOKさすがあたしの妹。話分かってるねー」
『茶化すあんたのクビ絞めていい?』
「あはは。そんなにあたしが憎い?」
『答える必要ない』
「それが回答ね」
『集中するからだまれ』
「じゃあ今から二分間、チャンスをあげよう。用意はOK?」
『ああ』
「じゃスタート」
あ、蓮の目つきが変わった。まだ幼いこの子は、あたしの分身でもあるの。凄く期待している。そして『こちら側』に付くのも待っているんだよ。あたしは蓮、お前が欲しくて、欲しくてたまらない。