仕事の時間
さて仕事の時間だ。そこには昨日のあたしはいない。巳弦と風樂と楽しい宴会をしていた時のあたしは、夢の中。
「風樂行きましょ」
「今日は何処へ?」
「んー?決まってるじゃない。元知事の所へ行くのよ」
「え」
「簡単な仕事よ。少し揺さぶりをかけるだけでいいの」
「碧生、簡単に言うけど策はあるの?それもアポイントも取っていないでしょう?」
「アポイント?あはは笑わせないで、お腹いた」
「大事な事でしょう」
「あたしの手にかかればそんな事『造作もない事』だ。まだ使えるはず。ふふ」
ビジネスになるといつもこうだ。人が変わったような発言と行動をする。そしてこちらの条件をのます為に駆け引きをする。それを提示して、行動すれば上手くいくものだ。あたしの場合はだけどね。他人はどうかは知らない。あたしが出来るのは色々な『鍵』を手にしているから、罠をしかければいい事。
「碧生が何を考えているのか理解できない」
「あはは。しようとしなくていいよ。風樂は付添人としてあたしのやり方を観察するといいよ」
「観察ね……何でそんな楽しそうに笑うの?」
「久々の遊びよ遊び。獲物」
「怖い人」
「ありがとう。一番の誉め言葉よ」
あたしは逃がす訳にはいかない。蓮とは違うけど、あたし達の尊敬する人物を嵌めた人間がいるのは事実。逃げれない現実なのよ。
狂気に塗れながらも、あたしは微笑み続ける。
お父様に言われたの。
守りたいものがあるなら、永遠に微笑みながら、裏で工作しろと。
守る為に必要な物事なのよ。九条家の為でも、蓮の為でもない。まぁ実質今回の行動はおじい様と蓮にしたら意外な行動で、計算外なのかもしれない。だって『あちら側』にとっては有利で『こちら側』からしたら不利になる可能性が高い。あの人を敵にするか味方に取り込めるかはあたし次第って訳。危険な橋渡りなのかもしれないけど、後戻りは出来ない。したくないんだ。普通の人生なんて知らない。あたしはあたしの背負うものがあるから行動を起こす。ただ一つ。それのみの為にね。
「港湾課……いやお父様の運転手から少し情報は得られた。だから道は用意されている」
「相変わらず、用意が早い事」
「まぁーね。じゃないと上手くいくものも『上手くいかない』だから出来る限りの情報は用意しておく。後口止めもね」
「裏切る場合もあるんじゃないの?」
「裏切る?このあたしを?はっ。そこまで馬鹿じゃないよ、あの人」
「理由は?」
「ああ。ある事を見せたら、震えながら泣いていたよ。あはは『碧生さん貴女は人間じゃない』と言われたけど、だから何?て訳よね」
「…なんとなく想像つきました」
「あはは。ならよろしい。では行こうか。始まりの旋律を鳴らす為に……ね」
フンフンと鼻歌を歌いながら、書類と写真、後はビデオを持って、支度をする。
まぁ見てなさいな。
『機密情報』あたしの手の中に……。
「に が す か」