兄妹像
それは歪んだ愛情の形なのかしら。あたしにはそれが普通だから、分からないの。他の人からしたらそう見えて当然かもしれないけど、あたし自身はそれが正しいと、正義だと感じているから、後悔なんてないし、自信を持っている。
今日もワインを飲み続ける。赤いワインはあたしの体内の血液と混ざりながら、一部になろうと企んでいる。笑い声とニヤリとする口元が見えているのは、ワインのせいか、それとも幻覚なのかしら。
(どちらでもいいわ、今更)
心の中の呟き一つで完結させれば、はいおしまい。他は何も考えなくていい。ただこのフワフワとした感覚を楽しみながら、溺れていけばいい。
「飲みすぎ……」
いつも通りの言葉。景色も、感覚も、そしてこの声も、仕事から離れたプライベートな碧生の一部分。
「巳弦も飲めばいいじゃない」
「俺はいいよ……」
いいよの言葉はどちらの意味かしら?巳弦の声のトーン、口調、そして表情を見れば一発なんだけど。意地悪なあたしはそうやって言葉遊びをしながら、彼の反応を見て楽しむ。困る彼は素敵なのだから。
「分かっているだろ、いらないって意味だよ」
「あはは。知ってる」
「構ってちゃんか」
「酒呑みの相手しない巳弦が悪い」
「はあああ?」
「ねぇねぇ風樂も呼ぼうよ。楽しいわよ。凄く」
「俺の妹も巻き込もうとしてね?」
「あはは。まさか」
「はあ……碧生、お前の酒癖の悪さには言葉が出ない」
「え?出てるじゃん」
「あのなぁ。ああ言えばこう言う」
「ねぇねぇ、呼ぼうよ」
楽しい楽しいお遊戯会の始まり。勿論あたしが主催者。二人は楽しんでいて。あたしが作り出す空間を。きっと素敵で、楽しくて、酒癖の悪い『現在』のあたしは凄く面倒くさい。でもね。こういう空間の中だけでも『自由』に九条碧生としてじゃなくて、碧生として存在したいの。今だけは、今だけは。家の事も家族の事も、そして妹の事も、何もかも忘れて楽しみたい。
表で子供みたいに笑っているあたしの内面なんてきっとお見通しなのかもしれない。気づかない振りをして、絡んでくれるのは凄く嬉しく、心地いい事。
駄々を捏ねるあたしを落ち着かせるには『要望』に応えるしか方法はないの。だから巳弦は溜息を吐きながらも、あたしの要望に応えてくれる。
風樂と巳弦は兄妹いつも仲良しの兄と妹。性格は勿論違うけど。ビジネスで深く付き合いのある風樂はあたしをサポートしてくれ、兄の巳弦は構ってくれる。二人を見ていると、楽しくも悲しくなる。だって二人はあたしの憧れの兄妹像なのだから。あたしと蓮とは違う。
羨ましいなんて言わない、言えない。
ねぇ、知ってる?あたしはいつもワインを呑むと面倒くさい奴になるけど、楽しみながらも二人を見つめ微笑んでいる事を。
だからいつも風樂を呼ぶの。巳弦に頼んで。
見ているだけでも、あたしも幸せを感じれるような気がして。眺めてる。