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償い



 あたしは少しでも償いたいの。


 貴女を捨てると蓮に言い放った事を、後悔しているのかもしれない。


 あの子は、もう少しで孤独の中に潜ろうとしている所だった。


 だからこそ、本来なら助け船を出すのが一番よかったのかもしれない。


 当時のあたしは蓮の存在を疎ましく思っていた。


 誰にでも好かれている蓮、笑顔の蓮、認められている蓮。


 全て粉々にして、壊してやりたいという衝動に駆られたの。


 あたしが長女。この九条家を支える『柱』なのに…それなのに。


 皆『蓮』を見て、期待している。あたしじゃなくて…。


 11も離れた妹に嫉妬するなんて醜い行為かもしれないけど、その時の純粋な気持ちだったの。


 それがきっかけで蓮が笑顔を失った。一切笑わなくなった妹の蓮を見ていると、最初は心地よかった。


 あたしが一番。蓮はあたしには勝てない。そしてあたしが蓮を支配する人間だと優越感に浸っていた。


 巡り巡る輪廻は、ゆっくると崩れ出し、純粋だった蓮は悪に染まっていった。


 まるで絵具のように、真っ白な画用紙に一筋の黒い絵の具が少しずつ滲んでいくように。


 真っ黒になった。


 あたしは捨てようとした。でも蓮が心配だから…それえは表の理由にしかなかった。一番の理由は『遺産』が欲しかった。蓮が九条家から去る事を決めた時、あたしはチャンスだと思った。去ると言う事は『遺産も放棄』する可能性が高かったから。全て自分のものに出来ると考えた。しかし実際色々調べていくと、おじい様が策を立てていて、あたしの力だけじゃどうにもならなかった。


 そう蓮が苗字を変えてしまうと、遺産の七割が蓮を養女としてとって人の手元にいくように計算されていたのだ。周りが金に群がりながらも、その金目当て、理由で蓮をある程度の年齢まで、大切に育てるように、種をまいていた。


 「姉さん、思い通りにはいかないね。残念だろうね。せいぜいもがくがいいよ」


 そう吐き捨てる蓮は、昔の優しい蓮とは別人。色々な大人の闇に触れてしまった『この子』は、もう元には戻らないだろうと思いながらも、あたしとは反対の派閥に入り、あたしが蓮にしたように、蓮もあたしに敵意を向けるようになっていった。


 全ては家柄のせいかもしれないけれど、一番の原因は姉のあたしが悪い。


 「蓮。貴女は階段でしかない。あたしを成功へと導く、ただの屍。自分の立場を知りなさい」


 「……」


 あたしは悪意に満ちた瞳で蓮を見下し、身体を投げ捨てた。言う事を聞かないガラクタに用はない。だから襟を掴み、引きずり回していた。蓮は少し苦しそうに、息をしている。そりゃそうよね。襟が首と動脈を圧迫し、上手く酸素が回らないのだから、苦しく手当たり前。


 「あんたなんて『姉妹』なんかじゃない。認めない。金の為に傍にいる癖に」


 当時の蓮はね、ある養成所にいたの。絵のプロを目指す養成所。あたしは呟いた。描きたいものを描くのではなくて『金』の為に描けと。そして蓮は自分の絵を描けなくなり、毎日泣いては、描いての繰り返し。愉快だった。皆にチヤホヤされている妹の苦しむ表情を見る事が一番の幸せだったから。


 「なんで……描けないの……ああああああ」


 壊れていく10代の蓮を隠れて見つめるあたしがいる。


 凄く面白くて、可笑しくて笑い声が出そうになっていた『あの時』の若かりし頃の自分。



 「……もう姉妹ではなくなったわね。あたしの言う事を聞かない蓮が悪」


 あたしはお父様。


 蓮はおじい様についた。


 

 何も後悔もしていない。あたしはあたしの存在を認める為に生きているのだから。


 その物事は『姉』のあたししか知らない『サイドストーリー』なのかもしれない。


 


 償う方法は一つだけある。


 中途半端に壊れた蓮なんて見たくない。だから…だからこそ。


 再起不能にして。この家から排除する。


 それがあたしなりの歪んだ『償い』



 

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