終焉
時は来た。それは覚醒の瞬間だ。私はいつの間にか夢の中から舞い戻り、意識を肉体に灯した。自分の鼓動を確認してみるが、相変わらず動いている気配はない。自分が人間ではなく化け物に堕ちた事実を再確認する。
<君はもう自由だ。好きなように生きていいんだ害悪>
私もみどりと同じで元の名前を捨てる結果となってしまった。しかし後悔はしていない。自分のすべき事を理解出来たから……これでいいのだ。
岬と妹はこの場から去り、残っているのはレイカ、いや九条蒼生のみ。私とみどりの全てを奪って白紙に変えた存在を消す事が本当の始まりを奏でる警鐘となるのだから。
右手を失った私は、彼女が愛しそうにイシスの元となる細胞の一つとして保管した実物を見ながら笑っている。その声を聞いていると、自分の中の悪意がどんどんと開放されていく。
──ああ。これが生きていると言う事なのだ。
私はみどりの言う通りに失った右腕の部分に糸が生えていくイメージをした。すると破損している部分から血管や肉が伸びていき、彼女の心臓を貫いた。
「……は?」
「お前を生かしておく訳にはいかない。イケよ」
イシスの器となった私の体は彼女の血を肉を欲する。喉が渇いて渇いて仕方がない。自分のなくしてしまった人間の心を埋め尽くすかのように、彼女を栄養素とし、私は心臓の音を手に入れる事が出来るのだ。
人間を喰らう事で心臓が動く仕組みになっている。これなら害悪としてだけではなく人間としてカモフラージュ出来る。なんて都合のいい体なのだろう。
彼女は足元から崩れていく。私の一部になっていく彼女は精一杯の力で振り返り、死んだはずの私の存在を確認してしまう。
「どうして」
その声を私を通じて聞いていたみどりが笑い声をあげる。それにつられて私もつい笑ってしまうのだ。リンクしていると言うのは厄介だが、愉快でもある。
最後の音を飲み込んだ私は、起き上がり、目を閉じあの二人がいるのかどうか確認する。生体反応を確かめているのだが、引っかかる事はなかった。
「また逃げたか」
そして私は色々な物事を過去へと塗り替え、別の存在として生きていくのだ。
人をあやめる、殺人鬼として。
音がなる
私達の心の音が
崩れながら
また時を刻もうとしている
We seem alive and dead
And like a human
It changed into a different existence
私達は生きているようで死んでいる
そして人間のようであり
違う存在に変化したのだ