肉を切る事は出来ても、骨を切る事は出来ないようだ
時間の感覚がなくなった私は完全に別人になってしまったようだ。痛みを感じる事が出来ない。今まで人間としての喜怒哀楽の殆どを失ってしまったのだから、仕方のない事。海を見続けながら呆けていると、ここがどういう場所なのかを考えて、その答えに辿り着く。
「そうか、だからこんなに──」
落ち着くのか。
海は私にとって母のような存在。それはイシスを示す。そこで初めて気づく事が出来た。私達『二人の蒼生』は元々一人の人間だった事に、性別を違うふうに生み出したのも全てはどんな結末が待っているのかを立証する為の実験の一つだった。
女の蒼生、いやもうミドリと呼んだ方が彼女は喜ぶだろう。元々私が軸で生まれた存在なのだから、名前を与えられた事により、自分の存在を認める事が出来たのだから、そこは幸せだったと考えている。結果は悲惨なものだったが……
運命に逆らう事が出来なかったのだ、私も彼女も。
そして岬の存在が大きく関わっている。あの男の実年齢は知らない。出会った時は同級生としてなのだが、以前よりもっと昔から彼を知っているような気がするのだ。
真相は闇の中なのだが。彼が私達と関わる事により闇を増築する事が出来、今回の結末に辿り着いたのは偽りのない真実だ。
「もう私には関係のない事だが」
そんな時だった海の水面に映し出された映像を目で確認する。ここは現実と繋がっていて、レイカ達が何をしているのかを教えてくれる。彼女達は何日も屍のように寝ている私を監視しているようだ。私が目を覚まし、自分達の都合のいいように動く存在にしたかったのだろう。
しかし、それはどうだろうか。私は無表情で呟いた。
「バリバリバリ」
痺れを切らしたのか、レイカはのこぎりで私の腕を切断しようとしている。肉は徐々に血しぶきと共に切り刻まれていく。その光景が美しくて、自分が変わってしまった事を直視する。
私は血を欲する。
私は肉を食べたい。
私は叫び声を聞きたい。
そんなメロディーを奏でたい。
のこぎりで肉を切る事は出来ても、骨を切る事は出来ないようだ。ミドリを主体として出来ているレイカに無理矢理割くなんて不可能だろう。ヒスは冷めた目でその光景を見ているだけ。レイカの妹は笑いながら床に飛び散った血を舐めている。
ヒスはため息を吐きながら「これを使え」とチェンソーを取り出してきた。ギュユンと機械的な音が鳴り響きながら、骨がバリバリと砕けていく。ようやく貫通する事が出来たレイカは私の右腕を補完気へとすぐさま入れる。
私が起きる見込みがないと考えたのだろう。心臓の音も何もしない。死人そのものにしか見えないのだから。火葬でもすれば私の思惑から逃げれただろうに。