幻想の海
頭がびりびりする。自分の体なのに別物のような感覚が全身を駆け巡っている。ドクンと血液と異質なものが混ざり合いながら、私は私の知らない『何者』かへと変貌していくのだ。
コントロールはまだ出来る。長年イシスの細胞と癒着している私の体はどうにかこの重圧に耐えれているのが現状だ。レイカは闇に染まったような怪しい笑みで私を見降ろしてくる。コトンと誰かの足音が近づいてくる。
「来たんだ、蒼兄さん」
「……どうしてお前が」
「さぁね? でも頑張っているみたいだね。どこまで耐えれるかな?」
思いもよらない人物の登場で感情がかき乱されていく。あの時レイカと会った時、蒼生として私の前に現れた時この二人は初対面だったはずだ。
「すべてはフェイクだったんだよ」
「は……」
私だけがこの現状を把握していなかったようだ。最初からヒスとレイカは協力関係にあった。ヒスはレイカ同様表舞台で生きている私に対して、強い劣等感と嫉妬をしていた。
歪んだ思考なのかもしれない、とヒスは笑う。そしてレイカが私に打ち込んだクスリの二本目を刺した。
「長年共存していた身体でも、二本目はきついんじゃないかな」
まるで私をモルモットのように扱うヒスに理解出来ない。先ほどの夢の続きなのではないかと疑ってしまう程、心が痛くて、悲しみに満ちている。
「どうして……」
私達は血を分けた兄弟じゃないか。どうしてこんな事をする。いくら私を自分達の駒に堕としたとしても、自分が表で私と同じ生き方が出来る訳でもないのに。ヒスは私の気持ちなんて気づく事なく、楽しそうに注入していく。
「兄さんには直接イシスの血をあげるよ。まぁイシスとして覚醒した存在の血液なんだけどね。元は同じだから取り込めるでしょ」
顔が青ざめていく。そんな事をしたら、自分の自我まで失ってしまうんじゃないかと。いや、その前に私が息絶えてしまう可能性の方が高い。
そんなに私が憎いのか、と聞きたいのだが上手く口が開けなくなってきている。話すのも難しい。先ほどまでは声を出す事は出来ていたのだが、イシスの血を注入された瞬間から身体が焼ける程熱くてたまらない。
もうヒス達が何を言っているのか分からない。
(私は……)
感情の制御が出来ない中で、瞳から一筋の涙が溢れた。まるで私の生きてきた道のりを示しているかのようで、空間はシンとしてくれている。自分がおかしくなったのか、何の音も聞こえなくなった。目の前に広がるのは綺麗な海のようなもの。
幻想の中で生きているかのようで、海に身を任せながら漂わせている私がいる。