ドア
黒い扉の中にミドリはいる。この場所にはまだ名前はついていない。この中で昔とは違う自分として生きていくチャンスを貰ったミドリはある意味、興奮していた。道なる世界の中に足を踏み入れたからだ。ここでいつか会う事になる自分自身を待つ為に、存在する事を許されたのだから。
青年にある願いを託した。
最後に昔の自分としての最後の仕事をしたのだ。
呪いは順繰り回って自分へと跳ね返ってくる事を理解した上での決断だった。
「覚えておきなさい、レイカ、岬」
そう呟くミドリの心は暗黒に染まっていく。もう自分自身がどんな存在なのか分からなくなる程に──
can not forgive
unforgivable
Destroy all of me
許せない
許さない
私の全てを破壊する
怨念に成り下がったミドリの事など知る由もない蒼は夢の中を彷徨っている。体が宙に浮いていて、頭がフワフワしている。現実感がないようであるこの空間に違和感を覚えながら、誰かが蒼に手招きをしている。
「……ここは?」
「君は夢の中にいる、ここは唯一彼女と繋がれる場所だからね」
「貴方は?」
「僕の事は夢の住人だと思えばいいよ、名乗る存在でもないしね」
青年はフッと微笑みながらも、蒼の手を握る。
「君は何も知らなすぎる。真実を知るべきだよ」
「真実?」
「彼女に会いに行こう。彼女と会うのは10年以上ぶりだろう?」
私は青年が誰の事を指しているのか分からずにいる。それでも何故だか青年の言う通りにしなければ後悔すると思いながら、彼の手を握り返した。自分の中で多少ざわつくものはあるけれど、覚悟を決めなければいけない場面だと思ったのだ。
闇は広い、歩こうとすると「そんな事する必要ない」と青年は私を宙に浮かしたまま引っ張る。まるで重力に逆らっているようで、身体全身でこの違和感を感じている。
本当に夢の中なのかと疑ってしまう。
広がる闇の中に小さな光が見えてきた。目を凝らすとその先に小さな扉がある。屈めばどうにか通れる大きさだ。今の自分にそんな芸当が出来るのだろうかと不安になりながら青年を見る。すると、大丈夫と言わんばかりに微笑みを返し、ドアの取っ手を握り、開ける。
すると、強烈な風がドアの向こうで靡いている。私の体を包み込むように吸い込もうとしている。抵抗をしようとすると、青年は耳元で囁いた。
「君の会うべき人はこの先にいる。流れに身を任せて、大丈夫だから」
そう言い切ると、私の手を離し、誰かに呼ばれるようにドアの向こうへと吸い込まれていくのだ。