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誰なの


 いつの間にか自分自身の話し方やあたしから私になっている事に気付いたのはこの状態になり数時間が経過した頃だった。本当の自分を持っていたはずなのに、別人になりつつある現実に目を向けるしかなかったの。


 「あたしは九条蒼生よ、しっかりしなきゃ」

 「そうまだ(・・)ね」

 

 何処からか私の頭の中で声が弾けた。どこから聞こえてくるのか分からないけれど、聞いた事のある声だ。昔自分の声を録音した事があるから分かる。これは私──


 「はじめまして。私の名前は九条レイカ」

 「誰なの」

 「初めて会うわね。本当は妹とも会わしてあげたかったのだけれども、今は難しいわね」

 「私の質問に答えて」

 

 ヒステリックになる自分なんて今までなかった。こんな自分、私自身も知らない。いつも余裕で冷静な判断が出来ていたのに、現実とは程遠い、この状況のせいで私はいつも通りの判断が出来なくなっていた。


 「ヒステリックになるのも無理はないわ。私は貴女の細胞から出来た人間よ」

 「どういう……」

 「貴女の母は貴女が裏切るのを察知していたのね。自分の欲望の為にイシスを利用するなんてバチ当たりな事をするからよ。だからダミーとして私が産まれたのよ。その証拠に見た目も声色も、何もかも貴女の生き写しでしょう?」

 「気持ち悪い」


 ふと漏れた言葉は感情の糸。自分で感情を言葉にするのなんて、それも今知ったこの女の前で。自分の失態に気付いたけれど、もう引き返せなかった。何が起こっているのかも知りたかったのもある。


 「貴女のお父様もダメよね。岬をこの研究所に入れたのが運のツキ。彼は貴女達の思い通りになる人間じゃないもの」

 「岬……彼が原因なの?」

 

 私の体を乗っ取ったしおりと言う名のイシス。時間が経てば経つ程、人間らしくなってきていた。それも徐々に岬の事を知っているような口ぶりもあったのだ。


 「この現状を見れば理解出来ない? いくら優秀な人間でもこんな状況になると、おかしくなるのは当たり前か」


 他人事のように笑う女に、憤りを隠せない。


 「ねぇ蒼生。貴女の立場私がもらうわ。その為に貴女は少しずつ人格も話し方も変化していったのだから。私が表に出る為に……」

 「訳が分からない」

 「今はそれでいいわ。仕方ないもの。ああ、そうだわ。貴女と同姓同名の男性いるわよね?」

 

 女は悪意のある表情で微笑んだ。私はハッとし、女を問いつめる。


 「まさか。蒼に何かしたんじゃないでしょうね」

 「ふふふ、今はまだ(・・)大丈夫よ。多分ね」

 「多分って……」


 蒼とは子供の頃以来、会っていない。どんな風貌になっているのか想像がつかないけど、きっと彼にも何かしら魔の手が降りかかろうとしてる。そう感じるしかなかった。


 「蒼は元気よ、本当素敵な男性になってたわ」

 「蒼に接触したの?」

 「ふふふ。貴女として、九条蒼生としてね」


 ここまで同じだとさすがに蒼も気づけないだろう。子供の頃以来会っていないのだから、私がどんな考えかまで知らないもの。


 唯一、女、いえレイカと違う所、それは考え方しかないのが現実なのだから──

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