青色の髪
ヒスがその言葉を呟いた瞬間ミソノの映像が乱れた。少し砂嵐が混じったかのような映像を見つめながら、何故その現象が起きているかを理解しているように余裕の笑みを漏らした。ヒスは表情が明るくなりくすくすと笑っている。
「……邪魔なんだよね。僕はこの先に用事があるんだ。通してくれないかな」
「……映像が乱れたようです。どのような事をしたのか分かりませんが」
映像が安定すると無表情なミソノの顔が再び映りだした。何が起きているのか分かっていないミソノは軽く首を傾げそう言い切った。
「君に分かる訳ないよね。だって君は何も知らない」
「……わたしには…何を……」
徐々に映像が歪んでいく。安定したかと思えば散る花のように乱れていくのだ。そしていつの間にか映像は真っ黒になり、動かなくなる。
「これだからポンコツは」
息を吐きながらも、呆れた様子のヒス。さっきまでの行動とは違って大胆な行動をし始める。ポケットに入っていたタバコを取り出し、口に咥えたのだ。ボシュッと火を灯すと、私の知っているヒスとは別人のような彼がいた。
「Switching」
まるでヒスの言葉に引き寄せられるかのように映像が切り替わる。真っ黒な画面の中に誰かが写りだしたのだ。そこには男のような骨格をしている仮面を被った人物が見え隠れする。
「人が来てやったのに、この待遇はあんまりじゃないか? Kleshas」
「……」
「だんまりかよ。僕は時間を有効活用したいんだ。用事がないのなら呼ばないでほしいね。そこまで暇じゃないからね」
「ambersか」
「僕の事、思い出せた? この扱いはあんまりじゃないかな」
するとどうだろうか。天井から雫があふれ出した。ヒスの全身を打ち当てる雨のようにそれらは彼を本当の姿へと変えていくのだ。どろどろとペンキが流れていくように、ヒスの髪色が本来の色に戻っていく。綺麗な青色へと姿を変えた彼は髪をかきあげ、画面越しに睨んだ。
「何をする」
「確認の為だ。お前に偽装されている可能性も捨てきれなかったからな」
「そんな事出来るのはあんただけだよ。で、話って何かな?」
「大した用事ではないのだが……」
余韻の残る言葉は何かの引っかかりを覚えるような話し方だ。それに気づいたヒスは水を含んで使い物にならなくなったタバコを携帯灰皿に隠す。
「レイカを使ってまで、僕と連絡を取ろうとしていたのは何処の誰だっけ?」
「……」
「ま。どちらでもいいんだけどね。用事がないのなら帰らしてもらうよ」
「その姿でか?」
「お前も知っているだろう。この水は特殊な水だ。時間が経てば元に戻る。そういう風に僕を作ったのはあんたらだろう。忘れたのか?」
気だるく言葉を吐く中でも少しだが怒りの表情が見える。こんな話し方をするヒスに気付かずに、私はノンビリと微睡んでいるのだ。