冒頭
流れる血を止める事は出来ない。
右手を左手で庇いながら、爛れ行く肉の進行を止める事は虚無。
溶岩のような状態に進行していく自らの肉体は崩れて、涙と嗚咽が口から零れる。
痛みなどない、熱さなど感じないように冷静に振舞おうと、演者になろうと試みるが
それを止める事は、今の自分にも、他人にも出来ない真実。
「わ…たしは……」
言いたい言葉が出て来ない。『痛い』なんて言いたくないという自分のプライドが優先して言葉を止める。
唸り声は豪雨のように心を突き刺し、この現実をかき消そうと動いてる。
ゴウゴウと雑音が私の耳の鼓膜を刺激し、心を崩して、廃人に変えてゆく。
(私はまだ失いたくない、醜くなりたくない…)
心の音は隠せない。強がる表と裏腹に反対の呟きを音にして、心に刃を立ててゆく。
赤い血潮があふれ出すように…。私の強さを浸食していくように…。
これは私の物語。私が『快楽』に溺れる前の物語。
美しいものを愛でながら『異常者』に変貌する前の、昔の話を君たちに送ろう。
榀る『手』を見つめながら、羨ましさ、嫉妬、後悔、そして…『美しさ』を見つけてしまう。
そんな私の表裏を君達に届ける為に…。
夢は夢で終わり、はじまる。現実は現実で終わり、幻想へと階段を上るように変異してゆく。
『人間』とは面白くもあり、儚く美しい。
夢の私は水面≪みなも≫に揺れながら『快楽殺人』を夢見る。
現実の私は血と指と手を愛でながら『幻覚』に溺れて、現在の私が構成される。
肉はヘドロになり
炎に包まれながら
床にボタリと落ちる。
堕ちる、堕ちていく。
私の大事な『右手』がただの『肉の塊』になってゆくのだ。
正常な『時』の私の旋律が君たちの心に響くと信じて…。