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四話目

発売前日更新

「ただいまー」

「お、お邪魔します……」


 綾瀬は一度家に帰り、荷物を持って来た。

 彼女の家に行き、家の住所を知れたのは、思いがけない誤算だ。


「あ、お兄ちゃんおかえ……り……?」


 真っ先に出迎えて来たのは、妹の百合(ゆり)だ。

 隣にいる綾瀬を見て、動きが固まってしまった。

 まあ俺も、百合が男を連れてきたら、同じ行動を取ると思う。

 綾瀬は百合と同じ目線にするために膝を折った。


「えっと、初めまして、かな? 綾瀬(あやせ)沙雪(さゆき)です」

「わっ……。わっ……」


 同じ言葉を発し、


「…………」


 思考が停止され、


「お、お母さぁぁぁぁぁぁん!!」


 ついに爆発した。

 百合が大きな声を出しながら、家の奥に消えて行った。


「えっと……」

「ああまあ、気にしないでくれ。それより、上がってくれ」

「あ、うん」


 綾瀬は遠慮がちに、靴を脱ぎ玄関を超える。


「お、お邪魔します……」

「あらー? あらあらあらー?」


 綾瀬の呟くような言葉を上回る、女の声が聞こえてきた。

 嫌な予感しかない。


「百合が突然『お兄ちゃんがめっちゃ綺麗な女の人を連れ込んできた!』って言うから、夢でも見たのかと思って来たけど、本当だったみたいね」

「……ただいま」


 突っ込みたいところはあったが、とりあえずスルーしておく。


「おかえり貴一。昨日のうちに帰って来ないから、そういうことね。

 ゆうべは おたのしみでしたね」

「うるさいよ」


 ネタが古い。しかもド下ネタ。


「えと……、あの……、その……」


 ほろ見ろ。

 綾瀬は顔を赤くして下を向いてしまった。


「立ち話もなんだし、どうぞ上がってください。聞きたいことも増えたし」

「えっと……、はい」


 行きたくないが、綾瀬が了承してしまったので、行かないわけにはいかない。

 ていうか家族と綾瀬の三人にすると、カオスしか生まれない。

 リビングに入り、椅子に座る。


「さて、お名前は……」

「あ、申し遅れてすみません。綾瀬沙雪といいます」

「これはご丁寧にどうも。私は天川聖子(あわかわせいこ)です。それで、聞きたいことなんだけど」

「は、はい」

「貴女、学生? 社会人?」

「大学生です」

「そう……」


 母親はそれだけを聞いて、今度は俺に聞いてきた。


「それにしても、アンタが女の子を連れ込むなんてねぇ」

「連れ込んではいないけど」

「しかもこんなにも可愛い。お金払ってるんじゃないでしょうね?」

「払ってるわけないやんけ!」


 いやお金ほしいってせがまれたら、喜んであげちゃうけど。

 あと可愛いことに関しては全面的に同意。


「それで、綾瀬ちゃんを連れてきて、どうしたの?」

「いや、普通に泊まるだけだよ。明日の午後から講義が始まるから」

「あぁ、そういうこと。何もないところだけど、自分の家だと思って、ゆっくりしていってね」

「あ、えっと、お気遣い、ありがとうございます……」

「遅くまで起きることはもう、大人だからとやかくは言わないけど、会社に遅れちゃだめよ」

「分かってる」


 母親はそれだけを言い残して、リビングから出ていった。

 おそらく、自分の部屋に行ったんだろう。

 ため息がこぼれる。


「なにがしたかったんだ」

「も、もしかして、私の人格診断とか?」

「あんな数回の会話でできるわけ無いでしょ」

「ふふっ、そうだね」

「お兄ちゃーん」


 綾瀬と会話していたら、百合が俺の胸に飛び込んできた。

 少しだけ衝撃が痛かったのは他言無用だ。


「どうかした?」

「この前の続きしようよ。昨日帰って来なかったから、ずっと一人で練習してた!」

「おぉ、そうなのか。いいぞ」


 中学生の妹は、贔屓目抜きで可愛い。

 背中まで伸びた髪の毛は、清楚な雰囲気を作り、そこに二重瞼で、顔の輪郭は整っている。

 学校では何回か告白されてるらしい。

 俺なんて一度もされなかった。

 なぜこんなにも差がついてしまったんだ。


「あ、そうだ。どうせなら綾瀬もやろう」

「え? な、なにを?」

「マリムカートデラックスだよ。ほら、あの会社の最新ゲーム機のやつ」

「え? 今、予約がいっぱいでどこも手に入らないって聞いたんだけど……」

「まあ発売初日に買ったしね」


 百合が欲しいと甘えてきたので、つい買ってしまったのだ。

 もちろん、母親に怒られたのは言うまでもない。

 文句は右から左へ受け流したが。


「マリムカートはやったことある?」

「あ、うん。一応は」

「なら大丈夫大丈夫」

「でもコントローラーは……」

「4つあるから大丈夫」


 百合が友達を連れて遊んだりするので、本体と一緒に買ったのだ。

 なお母親に(以下略)。


「早くやろうよー」

「まあそう慌てるなって」

「あ、ご、ごめんね?」


 テレビの前にあるソファに座る。

 俺が横になってテレビを見るように買ったため、三人が座っても幅はある。

 まあテレビ見ないから、自室で寝るのがめんどうな時用のベッドにしか使ってないが。

 綾瀬、百合、俺。

 の順番で座り、ゲームを開始した。


 ☆☆☆☆


 あれ、なんだか、この並びって……。

 天川くんに誘われるがままになっちゃったけど、今思うとこれ、妹ちゃんが子供で、まるで家族みたいな……!?


 そう思うと、顔が熱くなるのを感じる。


「あれ、お姉ちゃん、どうかした?」


 お義姉さん!?


「ふぇ!? ど、どうかした?」


 き、聞き間違いのはず。

 見てて分かるもん。

 百合ちゃん、天川くんのことをかなり慕ってる。

 そう簡単にお兄ちゃんを渡せないよね。


「えっと、お姉ちゃんの雰囲気が、少しだけ変わった気がするから」


 聞き間違いじゃない!!

 もしかして私、妹ちゃんに一発で気に入れられちゃった?

 おまけに、天川くんのお義母さまにも気に入れられた感じするし。

 そうじゃなきゃあんな数回の会話で、話を終わらせるなんてあり得ない。

 家族の承認を貰ったも同然なら、これは結婚してもいいんじゃない!?


 なんて妄想してたら、天川くんに話しかけられる。


「綾瀬」

「え? ど、どうしたの?」


 天川くん、いつもカッコイイなぁ。

 クラスでもなんだかんだ人気あったし。

 誰かと付き合わないかいつもヒヤヒヤしてた。

 でももう大丈夫。

 恋の神様が私に味方をしてくれたんだから、なんとかしてでも、好きにさせるって決めたんだから。


「えーと、さ……」

「??」


 なんだか歯切れが悪い。

 もしかして、今ここで私にプロポーズでもしてくれるんだろうか。

 もしそうなら、私がプロポーズしたくなる。


 お義母さま! 息子さんを私にください!


「あー……。ちょっと待ってくれ」


 そう言って、天川くんは携帯を取り出し、なにか入力していく。

 終わったらしく、画面を私に見せてくる。


『百合、あまりゲームは上手くないんだ。だから、勝ち続けることになるかもしれないけど、たまには負けてあげてほしい』


 これは嫉妬を隠せなくなりそう。

 百合ちゃん、大切にされ過ぎじゃないだろうか。

 もしかしてこれ、天川くんって百合ちゃんのことが好きなのかな。

 禁断の恋はだめだと思う。


 私と一緒に禁断のアバンチュールをしたのに!

 いや一夜限りにするつもりはないけど。


 とりあえず嫉妬とか下心とか独占欲とかその他諸々が気づかれないように、ウィンクをしておく。


「っ!?」


 一瞬で顔を真っ赤にした天川くん。

 私、みんなにMだとか言われてたけど、こういう姿を見せられると、もっと見たくなる。

 本当はSかもしれない。


 ☆☆☆☆


 あ、危なかった。

 百合は負けず嫌いなところもあるから、挫けずにゲームをしてるけど、上手いわけじゃない。

 たまにコントローラーのボタン配置を確認してる。

 だから、ずっと負けてばかりだと心が折れるから、綾瀬にわざと負けてほしいと頼んだ。

 そしたらもう、不意打ちウィンクですよ、ええ。

 いやもう、あれはズルい。

 好きな人が家にいて、妹を挟んでゲームをするだけでも緊張するのに、そんなときに不意打ちかますとは、一体全体どういうことなんだろうか。


 心臓に悪いのでやめてほしい。

 でも可愛いからもっと見たい。


 このジレンマ。


「練習した私の成果、見せるときが来たよ!」


 なんて自信満々に言うが、実力はそこまで凄いわけでもなく、接待プレイをして、道中一位などを取りながら、最下位の結果を残して一レースが終了した。


「……成果は?」

「う、うるさいっ! まだ本調子じゃないだけなんだもん!」

「あ、うん、そうだな。綾瀬は、結構上手いな」


 ちらっと画面を見たら、ショートカットをしてたときは驚いた。

 驚きすぎて俺がレース場から落ちた。


 雲に乗った亀さんにはお世話になります。


「そんなこと無いよ。天川くんの方がよっぽど上手だよ」

「まあ、よく付き合ってるからね」


 百合と付き合うのはいいが、百合の友達を入れて一緒にゲームをするのはやめてほしい。

 気まずいんだ。


「天川くんは、ゲームができる女の子の方が好き?」

「んー……。別にそこに拘ったりしないしなぁ。それにもし、俺がゲーマーだったとしても、彼女とゲームをしようとは思わないよ」

「え? どうして」

「そりゃまあ、どんなにゲームが好きでも、彼女の方が好きに決まってるからでしょ」

「っ!?」


 まだ読み込み中だったので、綾瀬と向き合いながら話してたら、突然、顔を背けられた。


「……えっとさ、お兄ちゃん」

「ん? どうかした?」

「いやさ、バカップルみたくいちゃつくのはいいけど、せめて私を挟まないでやってほしいなー、って」

「か、カップルじゃねえよ!」


 つい百合の言葉に強く反応してしまった。

 恋人みたいに思えて嬉しいという気持ちはある。

 ちらっと隣を見れば、綾瀬も俺の方を見ていて、恥ずかしくなって画面に目を向けた。


「な、なんだこの空間……っ! 言葉を発してないのに桃色に見えるっ」


 俺たちは百合の言葉を黙殺した。









 ちなみに、動揺とか恥ずかしさもあって、第二レースが始まってしまい、俺と綾瀬は普通に負けた。


脳内うるさい系女子かなって思ったの


好きにさせるんだから※既に好きです


読んでいただきありがとうございますっ。

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