三話目
仲が良さげな男×男or女×女or男×女が出掛けてたら、それはデートだと思う
「わぁ、かわいい……!」
俺たちは都心の方までやって来て、超大型ショッピングモールで買い物デートをしていた。
と言っても、何も買わずただ品物を見ているだけだが。
俺自身、趣味らしい趣味はないので、部屋もかなり(何もないから)綺麗なのだ。
パソコンと布団くらいしかない。
ゲームは携帯ゲーム機程度。
「可愛い可愛い言ってるけど、買わないのか?」
「んー……欲しいって思うのはあるけど、大学で忙しくて、バイトしてないんだ。だからあまりお金持ってなくて」
まあ、ホテル代も俺が出したしな。
使用後の支払いだったから良かったけど、使用前の支払いだったらどうしてたんだろうか。
「なら、買ってあげようか?」
値札を見たが、野口先生がいれば買える値段だ。
あと基本的にかわいいって言ってるの、クマばかりなんだけど、綾瀬ってこんなにクマ好きだったっけ?
「だめだよ〜。自分のものは自分で買わないと」
「しっかりしてるね。『男が奢って当然』と考えてる女に聞かせてやりたい言葉だ」
「えっ……。ま、まさか天川くん、女の子と結構出掛けてる?」
「一回も無いんだこれが。友達が言ってた。金が無くなるっていつも嘆いてた」
「あ、そうなんだ。よかった〜……」
なにが良かったんだろうか。
ていうかこの年で女の子と出掛けたことないってやばくね。
いやまあ、今してるけど。
更に言えばDTも卒業しちゃったけど。
デートする前にDT卒業とか笑えねぇ。
「どうしたの? いきなり頭抱えて」
「……い、いや、なんでもないよ」
まあ今はこうして、初恋の娘とこうやってデート出来てるし、それでいいや。
☆☆☆☆
場所は変わってモールの中にある飯処。
そこに、二人で入り席に着く。
「さて、なに食べるかね」
「むむっ……。なかなかに高い」
「そうか? どんなに高くても2000円あれば足りるじゃん」
「高いよ! 私働いてないもん!」
「いやそんなこと言われても……」
てか俺奢ろうと思ってたんだが。
「まあ値段のことは気にせず、好きなの食べようぜ。といっても、朝ごはんだからあまり食べれないけど」
「まあ、そうだよね。軽く食べてデートの続きしよ?」
「もちろん」
しかし、仕事を始めてからというもの、朝ごはんを食べなくなってしまった。
水だけでいいんだがね。
既に10時回ってるから、普通に食べれるけど。
「パンケーキ……! チョコケーキ……! パフェ……!」
……なんかデザート見て唸ってるんだけど。
控えめに言ってかわいい。
てか朝からデザート食べるんだろうかこの子。
「なあ、綾瀬」
「んー? どうしたのー?」
「大学生活って楽しい?」
「何とも言えないかなー。私が通ってる大学は少なからず、そこまで楽しくないかな。毎日毎日、課題とにらめっこだしね。天川くんは? お仕事どんな感じ?」
「Excel使うわ現場仕事するわで、頭も体も疲労困憊だわ。学校よりもつらいね」
「そ、そうなんだ……。でもExcelって、資格あるよね? 持ってるの?」
「あるわけ無いやん」
「えっ……」
「まあ無くても出来るしな。あんなのあっても無くても就職したら変わらんよ」
「そ、そうなんだ。ほかにはなにか資格あるの?」
「バーベキュー検定」
「え、なにそれ」
「バーベキューについての資格。初心者はバーベキューについて教わるだけなんだけど、上級者になるとバーベキューを人に教えることになる」
「わざわざそんなの取ったの……?」
「いやいや、嘘だから。高校生活しか送ってないのに、わざわざバーベキュー検定取るやつなんかほとんどいないから」
「あ、なんだ……。びっくりした」
「信じるなよ」
「え、えへへ……」
「笑って誤魔化してるし。あ、食べたいの決まった?」
「え? あ、うん……」
「ポチっとな」
心地よい音が店内に鳴り響く。
あ、口癖が出た。
会社の先輩たちといると、昭和のような言葉が出てくる。
口癖が伝染った。
「懐かしいネタだね、それ」
「アニメは見てないけどな。セリフだけ知ってるのよ」
「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「あ、きたきた。えーとすみません──」
自分の分と彼女の分を注文する。
「少々お待ちください」
頭を下げ、厨房の方に入って行った。
俺は綾瀬と会話を続ける。
「まあ、持ってるのはフォークリフトの免許だけだよ」
「あ、そうなんだ。やっぱり、フォークリフトって大変?」
「まあ、慣れるまでが大変だよ。最初は何度も製品を倒して上司に怒られたものだ」
今ではあの頃の俺も笑い話だ。
少しだけ笑みが溢れた。
そこで、あることを思い出す。
「そういえば、さ」
「ん? なになに?」
「アソコ、大丈夫? 初めてのあとも、まだ痛みは残るって聞いてるんだけど」
「ふぇ……? あ、うん……。だ、大丈夫だよ。えへへ」
顔を染めながら答えてくる彼女。
なんというかもう、尊い。
可愛い以外の言葉が出てこない。
尊いという言葉が出てきてるけど
「それに、中盤からは気持ちよかったしね?」
「うっ……。そう言われると恥ずかしい」
好きな人を気持ちよくさせることが出来たのは嬉しいけど。
少なからずここで話す会話ではないので、話題を逸らす。
「あー、えーと……。そ、そうそう! 今更なんだけど、連絡先、交換しない?」
「そ、そうだねっ、交換しよっか」
恥ずかしいのは綾瀬も同じで、俺の提案に乗ってくれた。
「LIMEだけじゃなくて、携帯の電話番号とメアドも交換しようよ」
「おう、いいぞ」
あ、返事したのはいいけど、やり方分からない。
赤外線通信ってどこだ……?
「あれ、どうかした? もしかして、やり方わからない?」
無言で頷く。
「ち、ちょっとだけ貸して」
素直に携帯を渡しておく。
携帯を受け取った彼女は、なにか操作したあと、携帯を返してくれた。
「はい」
「ありがとう。いやー、携帯とかあまり触らないから、こういうとき助かるわ」
「触らないって、基本何に使ってるの?」
「んー……。目覚まし、音楽プレイヤー、テレビ、あとは連絡ツール」
「連絡ツールとして使ってるのに交換方法知らないの?」
「いやほら、今ってライムで事足りるじゃん? 電話も出来てメールもできる。だから俺、兄の電話番号とメアド知らないんだ。ライムで事足りるから」
「家族なのに……?」
「仕方ないね。まあなにかあったときは母親に連絡が行き、そのあと俺たちに来るだろうから、必要性を感じなくてな」
しかも暗黙の了解みたいな感じで、向こうも何も言わない。
これだから男は……!(ブーメラン)
「お待たせしました。ご注文の──」
頼んだ品物が机の上に置かれる。
全て置いたあと、確認を取ったあと他の席に向かって行った。
「食べるか。いただきます」
「いただきます。それはそうと、天川くん」
「んー?」
頼んだ料理を一口食べる。
「出たから大丈夫だと思うけど、ちゃんと気持ちよくなれた?」
「ッ!? ごほっ、ごほっ!」
思いがけない一言に、料理が器官に入った。
慌てて彼女を見ると、耳まで真っ赤にしている。
……自爆攻撃は良くないと思うんだ。
☆☆☆☆
「ふわぁー、かわいい〜っ!」
瞳をキラキラさせながら、目の前で歩く犬たちを見ていた。
ショッピングモールにあるペットショップにやって来た。
大型の中にあるだけ、様々な種類の動物たちがいる。
犬だけでも、柴犬、チワワ、ブルドック、ゴールデンレトリバー。
ネコ、ウサギ、ハムスター、ハリネズミ、魚、ウーパールーパー。
ちなみに、俺達は行く気がないのでどうでもいいが、このモールには虫も置いてあり、ゴキブリまで飼育しているらしい。
本当にどうでもいい情報だ。
「ペットはお金が掛かるから、見るだけにした方がいいぞ」
「むぅ〜、分かってるよそれくらい〜」
分かって無さそうに見えるから忠告してるんだよ。
なんて口にはせず、笑って過ごす。
「てか動物と触れ合いたいなら動物コーナーでいいんじゃないの? なんでここに来たんだ?」
「触れられないからこそ、余計に可愛く思えて愛おしく思えるんだよっ」
なんか力説された。
まあ言いたいことはわからんでもない。
「だからといってかれこれ十分以上はいるし。そろそろ他のところに行こうぜ」
「あ、うん。そうだね……」
すごく悲しい顔をする綾瀬。
そんな顔も可愛いと思う俺は重症かもしれない。
「あーもう分かったから。気が済むまで見てていいよ。俺、通路にある椅子に座ってるから」
「うん、分かった〜!」
彼女を置いて、一人店から出る。
近くにあった自販機でアップルジュースを買い、椅子に座る。
「んっ、ん〜! なんというか平和だ。素晴らしい時間だと思う」
仕事がつらすぎて泣きそう。
休みはいいね。休みは心を安定にしてくれる。
リリンが生み出した文化の極みだよ。
「ママぁ!」
「びぇぇぇぇん!! ママァァ!! パパァァ!!」
「ふぁ!? なんでこんなのが数千円もするんや。頭おかしいやんけ」
「見ろよこれ。一発芸とかに使えそうじゃね?」
「バカヤロウ。そんなの使っても白けるだけだ」
「この服可愛くない?」
「あ、可愛い〜! でも、こっちも似合ってると思う」
子供の叫び声、友達同士の会話。
ふと、今の自分を客観的に捉えてみた。
周りは友達や家族で来ているのに、自分だけただ椅子に座ってジュースを飲んでる。
あれ、俺浮いてね?
と、そこで、話しかけられた。
「ねぇねぇ、お兄さん一人? 良かったら私たちと一緒に行かない?」
ザ・ギャルみたいな女性に話しかけられた。
肌は褐色で、髪も茶色に染めている。
「うんうん、今付いてくれば、両手に華だよ〜?」
もう一人も似たような感じだ。
強いて言えば、前者は露出高めで、後者は露出低め、というところか。
「あ〜、お誘いは嬉しいんだけど、人を待ってるんだ」
「えぇー? お兄さんカッコイイし、一緒にデートしたいなー、なんて思ってるんだけど」
「いやいや、君たちも十分、綺麗で可愛いよ。俺なんかより、他の男に声を掛けなよ」
「めっちゃ大人〜! すっごくタイプだわ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、他所を当たってくれ」
「いいじゃーん、一緒に行こうよ」
「おっと」
無理やり手を引っ張られ、少しだけ転びそうになった。
「今は彼女とデートしてるんだ。君たちみたいな綺麗な女性と一緒にいたら、勘違いされるんだよ」
「え、彼女持ちかぁ。まあお兄さんかっこいいもんね」
実際は年齢=彼女いない歴だが。
「それじゃ、また今度遊ぼうね。バイバイ」
「バイバイ」
「さようなら」
二度と会うこともないだろう。
というか逆ナンか。
人生で初めてされたぜ。
とうとうモテ期が来たかな?
「あ、天川くん……」
おっと、二回目の逆ナンか。
すごく声が聞いたことあるが。
まあ声だけで誰か分かるけども。
「もう動物見なくていいの? 綾瀬」
「う、うん。それは大丈夫なんだけど」
なんだろう、少し声が申し訳なさそうに聞こえるんだが。
とりあえず振り向いて見ると、そこには少しだけ悲しそうな彼女がいた。
「さ、さっきの人たちって、誰?」
「ん? あぁ、あの二人? さあ? なんか向こうから話しかけられた」
「えっ、そ、そうなの?」
「うん。それがどうかした?」
「えと、あの……。う、ううん。なんでもない!」
そう言うと、先程までの彼女が嘘だったかのように、笑顔になった。
「つ、次はあのお店に行こうっ」
「分かった」
彼女の後を追って、俺も足を動かした。
もちろん、飲んだジュースはゴミ箱に捨てた。
☆☆☆☆
「今日、すごく楽しかったよっ」
あれから、色々なところを周り、気がつけば日が暮れていた。
楽しい時間ほど直ぐに過ぎる、というのは本当だ。
「俺も楽しかったよ。久しぶりに楽しかった」
「それなら良かった」
──あぁ、ダメだ。
「ねぇ、天川くん、もし良かったら……」
──これ以上はいけない。互いに互いの生活が待ってる。
自分のわがままで、相手を振り回していい理由にならない。
「なぁ、綾瀬」
彼女がなにか言いかけたことを遮り、彼女に話しかける。
──だと言うのに。
「え? え、な、なに?」
──なんで声をかけただけでそんなに嬉しそうな顔するんだよ!
「明日、大学は何限から始まる?」
「明日は午後から始まるよ?」
「それなら、勝手で悪いんだけど、今日、家に泊まっていかない?」
「えっ……?」
驚きの表情を見せる彼女。
それを見て、つい早口でまくし立ててしまう。
「いや、嫌ならいいんだよ? うん。あくまで綾瀬が良かったらであって、無理なら無理で断っていいしさ!」
「あ、えと、その……」
少しだけ顔を俯かせ、少しだけ見える彼女の顔は、どこか朱くなっていた。
「そ、それじゃあ……」
顔を真っ赤にしながら、俺に伝えてくれる。
「お泊り、お願いしちゃおうかなっ」
……………………ふぁ!?
お読みいただきありがとうございますっ。