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二十五話

ご愛読、ありがとうございました。

「どうします? 旦那さんも撮ります?」

「ああいえ、流石にそれは……」

「おや、そうですかい? それでは、お二人とも並んでくださーい」

「あ、はい」


 ドレスを纏った沙雪の隣に、スーツを着た俺が並んで立つ。


「まさか、こんなサプライズしてくれるなんて」

「去年、クリスマスに何も用意してなかったから。それにほら、あの時は俺からホワイトクリスマスを渡したけど、今度は、沙雪からホワイトクリスマスをもらおうと思ってさ」


 ドレスも白いし、同じホワイトでしょ。という安直な考え。


「もう、外でそういうこと言うの禁止」

「ごめんごめん」

「お二人ともー、本来の目的を忘れないでくださいねー」


 カメラマンから茶化され、二人で仲良く顔を赤くする。


「はい、撮りまーす」


 何枚か撮られながら、沙雪のお腹に目を向ける。

 そこには、少しだけ大きくなったお腹があった。


「大きくなったな」

「そうだね。お腹が大きくなっていくの、貴一くんの愛情があるんだって思えて、幸せなんだ」

「……それは良かった」


 照れながら、少しだけ目を背ける。


 その後も、撮影は滞ることなく、無事に終了した。


 ☆☆☆☆


「沙雪、あまり無理する必要はないからな?」

「もぅ〜、心配し過ぎだよー。少しは運動しないとなんだよ?」

「いやそうは言うけどさ……」


 なんだかんだ、まあまあ大きくなったお腹を見る。

 心配になるのは仕方ないと思う。


「それに、今日は椅子に座るだけなんだよ?」

「それは聞いてる。だからこうして付いてきてるわけで」

「ふふっ。でも、そんな貴一くんも好きだよ?」

「……そりゃどーも」


 場所は、沙雪の通う大学の体育館。

 ただ、小学校や高校とは違って、かなり大きい。

 コンサート会場みたいな場所だ。


 椅子が三階まである。

 ただ、卒業生しかいないので、一階にある椅子で数は足りてるようだ。

 俺たちは、沙雪が妊婦という都合上、二階にいる。


 ……ふむ。


「見るがいい。人がゴミのようだ」

「突然どうしたの?」

「なんでもない」


 しかしまさか、こんな形といえばこんな形だが、まさか沙雪と大学に来ることになるとは思わなかった。


 沙雪がいなかったら、迷子になりそうなほど広い敷地。

 俺一人だったら、絶対に入学できないところだ。


「未来に羽ばたく若人たちよ!」


 沙雪と一緒にいたら、校長先生みたいな人が出てきた。

 大学だと、校長先生って言わないよな。

 なんて言うんだ?


「校長先生?」

「学長だよ」


 学長という名称のようだ。

 一つ為になった。


 明日には忘れてそうだが。


 その後、学長が長い話を終えた後、卒業生一人ひとりに卒業証書を渡していくことに。

 ちなみに、沙雪には個人的に渡されるらしい。


 まあ、妊婦を歩かせるわけにもいかないし、変に目立つもんな。


 これは後で聞いた話だが、妊婦にもなってこうやって卒業式に出られるのは、沙雪の単位と日頃の行いが良いかららしい。


 沙雪となんでもない世間話をしていたら、全生徒に配り終えたらしい。

 これから、各家庭で集まって写真撮影などの自由時間があるようだ。


「さて、卒業証書貰ったら帰る?」

「うん。帰ろっか」


 脇に置いておいた車椅子を持ってくる。


「ほら、座って」

「うん、ありがとう」


 ちなみに、今回は車で来た。

 妊婦を電車に乗せるなんて、そんな危ないことはできない。

 車椅子を押しながら、今日のご飯の献立を決めていく。


 今日も天川家は平和です。


 ☆☆☆☆


「貴一くん、家でちゃんと過ごせてる?」

「いやいや、心配し過ぎでしょ。これでも社会人よ」

「でも貴一くん、生活力が低いから……」

「俺の心配はしなくていいよ。それより、自分の体調を心配してくれ」

「うん…」


 産婦人科のベッドで、のんびりと横たわる沙雪と会話をする。

 ちなみに、昨日は肉を焼こうとしたら火柱が上がり、料理どころではなくなった。

 あらかじめ、消火器を買っておいて正解だった……。


「私がいるときは、ご飯は私が用意できたけど、今はこんな状況だし……」

「ちゃんと自分のことは自分でできるよ」


 まあ、キッチンやリビングは大惨事になってるけど。

 沙雪が退院する前日、ハウスキーパーを頼んで綺麗にしてもらおうと画作している。

 俺に家事なんてできない。できるのは火事だけ。


「うぅ……。心配だよぉ〜」

「まあまあ。それより、体調とかどう? 家から持ってきて欲しいものはある?」

「今のところは大丈夫。ごめんね、荷物持ちみたいなことさせて」

「いやいや、これくらいしかできないから。そのくらいはさせてよ」

「うん。ありがとう」


 沙雪が入院してからは、毎日カップ麺生活が続いている。

 バレたら怒られるので、絶対に教えない秘密だ。

 墓まで持っていく。


 と、そんな時、沙雪のご両親がやってきた。


「あ、お疲れ様です」

「あら貴一くん。こんにちは」

「そんなに畏まらなくても構わないよ。ほら、椅子に座ってくれ」

「あ、はい」


 椅子に座り直す。

 ただ、お二人ともなかなか良い関係を築けていると自称している。

 最初の頃は、少し硬い糸のようなものがあったが、今はそんな糸も解け、家族とは行かないまでも、それに近い関係になっている。


 そんな気がした。


「それで、沙雪は大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ、お母様」

「それならそれでいいのよ。初めての出産で不安も多いと思うけど、貴女なら問題ないわ」

「はい」


 ……なんていうか、娘が親に対して敬語を使うってのは、違和感あるよなぁ。

 他人の家庭なので、あまり口出しはしないし、本人たちがそれでいいなら、それでいいんだが。


「貴一くんも、毎日来てくれてありがとう」

「いえいえそんな。とんでもありません」

「私たちの頃は、仕事でなかなか家に帰れなくてね。妻を一人にさせていたんだ」

「あなた……。別に、私は気にしてないわ」

「ああ、ちゃんと分かっているよ。だから貴一くん、勝手で済まないが、沙雪にはそんな寂しい思いをさせないでくれるかな」

「はい。もちろん分かっています」

「そうか。それはよかった。それじゃあ、私たちはそろそろ行くよ」

「もう行ってしまうんですか? 来たばかりなのに」

「何言ってるのよ、沙雪。新婚夫婦の邪魔をするほど、私たちは野暮じゃないわ」


 お義母さんがそんなことを言うと、紗雪の顔が赤くなる。

 かくいう俺も、少しだけ恥ずかしい。


「それじゃ貴一くん、あとは頼んだよ」

「はい」


 お義父さんは俺の肩に手を置いてから、夫婦揃って病室から出て行った。


「……なあ沙雪」

「ん?なぁに?」

「出産予定日に変更はないんだよな?」

「うん、ないよ」

「分かった。その日はちゃんと休みを取ってあるから、朝からいるよ」

「ありがとう。私も、傍に貴一くんがいると、すごく安心する」

「……それじゃあ、また明日来るから」

「うん」


 俺も、病室を後にする。

 なんだかんだ、面会時間もギリギリなのだ。


 ☆☆☆☆


 そして、出産予定日がやってきた。


「貴一くん、ちゃんといるよね?」

「ああ、ちゃんといるよ」

「うん。よかっ──ううん!?」


 陣痛が始まった。

 すでに、分娩室まで担架で運ばれている。


「お父さんは、是非とも奥さんの手を握っててくださいねー!」


 ナースの人が真剣な声を出している。

 正直、出産の時、男にできることはない。

 ただこうやって、手を握ることしかできない。


 それがどれだけもどかしいことか。


 分娩室に通される。


「ゆっくり呼吸してくださいねー」

「は、はい……」

「いきますよー。ヒィ、ヒィ、ふぅー」

「ヒィ、ヒィ、ふぅー」


 ナースと沙雪のやりとりを聞きながら、沙雪の手を握りしめる。

 時々、強く握られる時があるが、その時はこちらも強く握り返す。

 傍にいることを、実感させるように。


「貴一くん……! 貴一くん……!」

「沙雪! 俺はここにいるよ。どこにも行かないから」

「うん……っ!」


 数十分に一度、こんなやりとりをする。


 そして、何時間が経過しただろう。


 逆子だった、なんてこともなく。

 無事、出産も終わった。

 長い時間だった。そして、短いとも言える時間。


 今は、子供はベッドの隣で寝ている。

 それと一緒に沙雪も出産の疲れからか眠ったままだ。


「…………んっ」


 頭を撫でていると、沙雪が目を覚ました。


「おはよう」

「……うん。おはよう、貴一くん。私、頑張ったよ。頑張って、貴一くんとの赤ちゃん産んだよ」

「ああ。ちゃんと見てた。頑張ってくれてありがとうな」

「うんっ」


 子供を産んだとは思えない、屈託のない笑顔。

 本当に、こんな子が俺の妻でいいのかと思ってしまう。


「……ねぇ貴一くん」

「ん? 何かご褒美が欲しい?」

「んー。ずっと我慢してたから、またエッチしたい」

「昨日の今日産んだのに……?」


 性欲魔人かと疑う。

 慄いていると、彼女は口を開く。


「そうじゃなくてね。名前」

「沙雪」

「私の名前じゃなくて、私たちの赤ちゃんの名前」

「ああ。ちゃんと考えてたよ」


 仕事中だったり、家にいる時だったり。

 赤ちゃんの名前事典など買って、ここしばらく悩みに悩んで、やっと決めた名前だ。


「俺たちの子供の名前は──」


 その名を口にすると、彼女は『素敵な名前だね』と微笑みながら言った。





これにて、成人式は完結になります。

貴一と沙雪が歩む人生は、まだ始まったばっかりではありますが、きっと幸せな家庭を築くことでしょう。


そして、かなり前に幼馴染物の情報を、前書きか後書きで情報を少しずつ出していくと言いましたね。

残念だったな、トリックだよ。


https://ncode.syosetu.com/n8487hd/


雛子が送る幼馴染物、完結と同時に開始します。


是非こちらも、読んでいただければ幸いです。



最後になりますが、ここまで応援してくださった皆様、ブクマ・評価をしてくださった皆様、本当にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬわぁぁぁ、更新見落としてました、完結お疲れ様でした!長い間楽しませていただきありがとうございました! [気になる点] 強いて言えば、2人の子供が学校に通うようになって、また2人の授業参観…
[良い点] 完結お疲れ様でした!
[一言] 出産(完結)お疲れ様でした!
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