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二十四話

アサヒィスゥパァドゥルァァァァイ!!

 突撃! 隣の綾瀬家!


 はい、というわけでやってきました綾瀬沙雪さんのご自宅。

 ちなみに来るの初めての私、かなり緊張しております。


 そんな私こと天川貴一なんですが、なんと今まで沙雪のご両親に挨拶をしたことがありません。


 それが突然結婚の挨拶だなんて言われたら、きっと激おこぷんぷん丸待ったなしでしょう!


 五発まで殴られる覚悟の所存で来ております!


 できれば殴られたくありません!


 まあたとえ、印象が悪くなくても、これから誠意を持って接すれば、きっと認めてくれるに違いありません。


「心の準備ができてないのに、来てしまった……」

「もう、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

「いやそうは言うけどさ……」


 一応、菓子折りも持ってきたから、できればこれで許してほしいところだ。

 殴るならこの菓子折りを殴ってください。


「……ほら、行くよ。なんだかんだ、帰ってくるのも久しぶりなんだよね」

「挨拶するのはするんだけどさ、沙雪を貰うためにも。ただ、ね……?」

「そ、そういう恥ずかしいことをここで言わないでっ」


 恥ずかしがるうちの妻可愛い。


 外で少し騒いでいたら、中から一人の女性が出てきた。


「おかえり、沙雪」

「ただいま帰りました、お母様」


 ていうか、親のことを様付けする人いるんだな。

 なんて現実逃避してたら、女性がこちらの方を向いてきた。


「貴方が貴一くんね。話は聞いてるわ。さあ、上がって」

「あ、はい。お邪魔します」


 男としての戦いが始まった。


 ☆☆☆☆


 娘の沙雪から、なんだかんだ業務連絡として、彼氏さんのことは聞いていた。

 いい人ということは、文面から伝わってくるし、沙雪が選んだ相手だ。

 とんでもないクソ野郎ということもないだろう。


 もし、変なやつだったら一発殴って喝を入れてやらないといけない。

 そして、娘から聞いたのは、彼氏くんが付き合うということで、挨拶してないことに少し気を病んでるらしいが、ただ付き合う報告で挨拶なんてされたら、そこまで律儀にされるとこちらが畏まってしまう。

 なので、それはどちらでもいいのが本音だ。


 そして、今日は急な仕事で会社にいるが、帰ったら彼氏くんがいるだろう。


 ……気が重い。


「おや? 綾瀬課長、今日は顔色が優れませんね」

「ああいやなに、少し家庭の事情でな……」

「それはまたなんというか」


 おおっと、部下に心配させてしまった。

 上司として失格だな。


「いやなに、君が心配することはない。それに、仕事は仕事として、私情は持ち込まないよ」

「いえ、別にそこの心配はしてないんですが……」


 とりあえず、この仕事を終わらせ、細かい雑務を終わらせないと帰れそうにない。

 私は気合を入れる。


 ☆☆☆☆


「さて、彼氏くんは変に緊張してないだろうか」


 緊張する気持ちもわかる。

 私も、挨拶しに行った時は、緊張したものだ。


 そんなことを考えて、思わず笑みが溢れる。


(向こうの人も、こんな気持ちでいたんだろうな)


「今帰ったよ」


 玄関を開けると、うちの妻が待っていた。


「あら、お帰りなさい。とりあえず、会うのは着替えてからかしら?」

「ああ。向こうも、かしこまった格好なんだろう?」

「ええ、わざわざスーツで着ているわ」

「そうか……。こちらも、それに合わせないとな」


 妻と別れ、自室の和室へ。


「貴一くん、うちの旦那、今着替えてるから、もう少しだけ待っててちょうだいね」

「あ、はい!」


 着替えていたら、遠くから妻の声と知らない男の声が聞こえる。

 緊張の混じった声の裏に、優しい声音があることに気づく。


 声で騙されたらいけない。

 ここは、言わないといけない時は言わないといけない。


「ふぅ……。とりあえず、こんなところか」


 新品のスーツに着替え、和室で待つことに。


 少し待てば、彼氏くんがやってきた。


「は、初めましてっ。天川貴一と申します──」


 彼氏くんの自己紹介から始まり、私の自己紹介をすることに。



 自己紹介から多少話し、私は一度席から離れる。


「お、お父様!」


 慌てて、私の後ろをついてくる娘。


 冷蔵庫から、お気に入りのワインを取り出す。

 男というのは、素面では腹を割って話せないものだ。

 ワインをグラスに注ぎながら、娘に伝える。


「悔しいね」

「え……?」

「嫌なやつなら、一発くらい殴れたのにな」


 彼氏くんからは、嫌な雰囲気は感じないどころか、すごく印象が良い。

 注ぎ終わったワインを、娘に渡す。


「幸せになるんだぞ」

「っ……。……はいっ!」


 嬉しそうに笑う娘。


 ──そんな笑顔を見せられて、結婚を反対できるわけがないだろうに。


 私は、自分のグラスを持ち、和室に戻る。


「貴一くんは、お酒は飲めるかい?」

「人並みには、はい。会社で飲むこともありますので」

「そうか。それはよかった。それでは」


 娘からグラスを受け取る彼氏くん。

 私のやろうとしたことが分かったのだろう。


 同じことをしてくれた。


「「乾杯」」


 グラスに入っていた氷が、二人の結婚を祝福の鐘のように感じた。


 ☆☆☆☆


 あれから、彼氏くんとは色々話した。

 途中、女二人には出て行ってもらい、男二人で話した。


 男同士の会話だ。


「──ところで、貴一くん」

「はい」

「式は、挙げるのかい?」

「沙雪さんと相談したんですが、式は挙げず、その分を旅行代に回そう。という話になりました」

「そうか。それはいいんだが、私から一つお願いをしてもいいかな?」

「はい。なんでしょう」

「式を無理に挙げろだなんて言わない。ただ、ウェディングドレスだけは、着させてやってくれ」


 うちは式を挙げたが、それを強要するつもりはない。


 ただ、初めてドレスを着込んだ妻は、嬉しそうで、何よりも綺麗だった。


 ぜひ沙雪にも、同じ気持ちを味わってほしい。


 強要はしないが、父親としての、小さな『お願い』だ。

 これくらいなら、提案してもいいだろう。


「……はい。私も、ドレスはレンタルで撮ろうとは思っておりました」

「そうか……。それはよかった」


 できれば、その時に撮った写真は一枚欲しいが、娘が自分から送ってくれるだろう。


「それと、子育ては大変だ」

「はい」

「困ったこと、悩みなどがあったら、相談するといい」


 私が薄く笑えば、彼氏くんも薄く笑いながら答えてくれた。


「はい。ありがとうございます」


 お礼を言いたいのは私の方だ。


 娘を、幸せにしてくれてありがとう。


 初恋を実らせてくれて、心から感謝するよ。







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― 新着の感想 ―
[一言] 夏だから冷たいビールが飲みたいんじゃな。 優しいご両親で良かったね! 厳しい親なら堕胎して別れろと言われるか、問答無用でぶん殴られるわ笑
[一言] そもそも「嫁」というのは、三省堂の辞書によれば「息子の妻として、その家族に迎え入れられる女性」である。嫁と呼んでいいのは、本来、結婚した息子の父親及び母親だけ ちゃんと日本語として書いてほ…
[良い点] あれ、割とはっちゃけた作品で笑って読んでたのに不覚にも感動してしまった。
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