二十一話
少し暑さが残る季節。
風を涼しく感じ、沙雪と手を繋ぎながら歩く。
「たまには、こうやって公園を散歩するのもいいね」
「流石に、夏にはできなかったしね」
何気ない会話をしながら、ゆっくりと歩みを進める。
辺りは既に紅葉が咲き始めており、紅葉を見に来た人たちもチラホラいた。
「でも良かったね。無事、新しい仕事も落ち着いて」
「本当に、良かったよ」
アレは大変だった。
新プロジェクトの現場監督を一任され、前までのように早く帰れなくなってしまった。
最初の数日は、沙雪も理解をしてくれて、何も言わなかったが、一週間を経ったある日、ついに爆発した。
帰ってきて早々、強引にキスをせがまれ、そのまま玄関で致してしまうことに。
……あのときの発情した沙雪はなかなかにエロかった。
「でも、もうそろそろできる頃合いだね」
「ん? なにを?」
「紅葉狩り」
というわけで、紅葉狩りが決定した。
☆☆☆☆
「なんだか、こうしてお弁当を作るのも久しぶりな気がするね」
「あー、そういえばそうだった」
最近は外に出ることも少なく、ましてや、お弁当を作ることもなかった。
公園の角でシートを貼り、お弁当を広げる。
「おまけに、のんびりとお話しする時間もなかったもんね」
「うっ……、それは申し訳ない」
「あ、ううん! 嫌味とかじゃなくて、お仕事だからしょうがないよ」
「それ言ったら、沙雪も大学に行きながら家事をしてくれてるわけじゃない?」
「私の場合は、単位も揃ってるし、安心して卒業できるから。貴一くんのほうが、責任のあるお仕事をしてるから、私にできるのって言ったら、お仕事に集中できるように、家のことをすることしかできないから」
「いやいや、十分助かるよ」
ネットとかテレビとかで、主婦の人は家事が嫌になるって聞くし。
それを毎日してくれる沙雪には、頭が上がらない。
「ふふっ。そう言ってもらえると嬉しい」
微笑む沙雪が可愛い。
改めて思うと、沙雪ってスペック高いよな……。
勉強もできて運動もこなせる。
料理は完璧で、家の掃除とかも進んでしてくれる。
性格は良くお淑やかで、おまけに夜の営みにも積極的だ。
……どうして俺のことが好きなんだろうか。
「うぅ……、俺のことを見捨てないでくれ」
「いきなりどうしたの!?」
驚いた声をあげられる。
まあ、いきなり彼氏が変なこと言い出したら、ビックリもするか。
「いや、沙雪はこんなにも立派だけど、なんで俺のことを……、ん……っ?」
唐突に、口の中に唐揚げを押し込まれた。
肉汁が口内に広がり、食欲をそそる。……ではなく、
「怒るよ」
なにか言おうとしたら、先に言われた。
結構、真面目なトーンで。
「さ、沙雪……?」
「貴一くんを選んだのは私なんだよ? そんなこと言われると、私に男の見る目がないみたいだよ」
案外、簡単にダメンズに引っ掛かりそう。
そう言ったら更に怒るだろうか?
「貴一くんを選んだ私の意見や意志を、少しは尊重してほしいな」
「ごめん」
そこまで言われると何も言えなくなる。
というか健気過ぎでは?
世界の中心で愛を叫びたくなる。
「分かってもらえたのなら、許すとしましょう。それで、唐揚げどう? 今回のは少しだけ自信作なんだ」
「なるほど。どおりで、いつもよりも美味しく感じるわけだ」
「良かった」
沙雪の言ってたみたいに、最近はゆっくりと話す機会が少なかったので、公園の日の光を浴びながら、お喋りを続ける。
「大学はどう? 問題なく卒業できそう?」
「うん。一応、貴一くんと過ごすための条件だから、この生活を邪魔されたくないもん」
「勉強、大変じゃない?」
かくいう俺は、勉強が嫌だから就職したと言っても過言じゃない。
百合のこともあったし、タイミングが良かった。
「でも講習は、ちゃんと話を聞いて家で復習すれば、困ることなんてないよ」
耳が痛い。
復習も予習もしてない人間がここに。
「あ、この目玉焼き、すっごい美味しい」
「本当? 良かった。少しオリジナリティにしたから、少し不安だったんだ」
「めっちゃ美味しいよ。世界で一番の美味しさ」
「もう、褒めすぎだよー」
嬉しいのか、顔を赤くする沙雪。
かわいい。
☆☆☆☆
「ずるい!」
「え?」
紅葉狩りでの出来事を百合に話したら、文句を言われた。
「私だってお姉ちゃんと遊びたい」
「いやそうは言うけど、百合だって友達と出かけたりして忙しいじゃん」
「それはそうだけど、でも何日に遊ぶか教えてくれたら、合わせるもん」
「あ〜……。分かったわかった。次はちゃんとおしえるよ」
適当に返事をしておく。
なんていうか、百合も随分と沙雪に懐いたな、と。
来るもの拒まず、去る者追わずの精神を表したような子だからか、誰とでも仲良くなれるんだろうか?
「でもなんでそんなに遊びたくなるんだ? 年齢的にも、友達と遊んでる方が話が合うだろ?」
「そうでもないよ? 色々知ってるから、話してて楽しいもん」
「まあ確かに、色々詳しいよな」
IQが高いというか、高すぎる気もするが。
「でも、お姉ちゃんとまたお出かけするの、楽しみだね」
「まあそうだな。沙雪も、百合のことを好いてるし」
「嬉しい限りだね。それより早くお出かけしたい」
「はいはい……。今電話するから」
携帯を取り出して、沙雪に連絡を取る。
向こうも特に予定がないと言われたので、車に乗ることに。
「お出かけお出かけ楽しいな」
独自の曲を歌いながら、助手席に乗り込む百合。
「レッツゴー!」
車が動き出した。
ただいま。
久しぶりの投稿に、私もびっくりしています。
なんていうか、執筆する気力があったので、なんとか書けました。
この調子で、完結まで持っていきます。




