二十話目
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「町内開催の肝試し?」
「そう。会社の人から紹介されたんだよ」
会社からの帰り、上司から手渡しされたものだ。
早速、沙雪に見せると、少しだけ嫌そうな顔をした。
「怖いのは流石に……」
「まあ分かるよその気持ち。でも、あくまで町の発展をするための余興らしく、そこまで怖くないらしい。それで、少しボランティアの一環で出てほしいと」
上司から説明されたことを丸々教える。
そこまで怖くないことを知ってか、沙雪の反応が少し変わった。
「あんまり怖くないなら……。で、でも、それって貴一くんと一緒だよね?」
「当たり前だよ。むしろ、沙雪がいなかったら参加する必要ないし」
「そっか……。いつ開催するの?」
「来週から来月の上旬と書いてあるね」
「んー……、じゃあ行ってみよ?」
「了解」
なんて会話をしたのが二週間前。
そして現在──
「いやいやいや!? 見た目からして怖いよ!?」
尻込みする沙雪の手を引っ張る。
嫌々と首を振ってるが、手を離さない。
「見た目だけだって。中は怖くないとみんな言ってるよ」
「みんなって誰!?」
「えっとー……、みんな?」
「いないよね!? 」
まあまあ、と宥める。
「大丈夫。俺が守るから」
「ッ!?」
沙雪の目を見て言うと、一瞬で顔を赤くした。
「え、えっと、あの、う、うん……」
声音が小さくなっていき、俯いてしまう。
一度手を離し、肩を抱き寄せる。
「え……?」
「さ、行こう」
「う、うん……っ」
☆☆☆☆
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
可愛らしい声をあげながら、力強く抱き着いてきた。
顔を胸に埋めてくるので、頭を撫でる。
こんなことが、既に三回ほど起きている。
「大丈夫? 沙雪」
「やぁ!! お家帰るぅ!」
……やべえ、すごい可愛い。
恐怖のあまり、幼児退行をしていた。
頭を撫でながら、背中を優しく叩く。
耳元に口を近付け、そっと囁く。
「大丈夫?」
首を横に振る。
「出る?」
また首を振る。
「頑張って進む?」
首が縦に振られる。
「本当に怖いなら、無理しなくていいよ?」
「だ、大丈夫。き、貴一くんが一緒だから……」
この彼女可愛すぎか。
世界の中心で、愛をさけぶ。
こいつ、めっちゃかわいいでしょ? 俺の彼女なんすよ。
「それじゃあ、進もうか」
「うん……」
俺から離れ、今度は腕に抱きついてくる。
微妙に痛い。
普段、料理などで力を使うからか、まあまあの強さだ。
「一歩ずつ、少しずつ行こう」
「うん……」
反応がないのは冷たい。
けど、こうさせたのは俺の責任だし、何より、ここまで弱ってる沙雪が可愛すぎてやばい。
もっとイジメたくなる。
やらないが。
☆☆☆☆
「うぅー、怖かったぁ」
少しだけ泣きながら、肩に頭を寄せてきた。
お化け屋敷から出てきて、なんとかベンチに腰掛けたと同時である。
周りを見ても、グロッキーになってる人たちもチラホラと。
流石の俺も、出口付近で目玉だけ垂れ下がるのはびっくりした。
せめて人形垂らせよ。
「頑張ったね、沙雪」
「……うん、頑張った」
今度ホラゲでもやらせてみようか。
前に百合に買ってきたときは、全然怖がらずにやってて、なぜか聞いたら『だって、あくまでこれは人が作ったものだよ? 怖さを体感させるためなら、何一つ怖くないし。それに、一番怖いのは生きてる人間だよ』と返された。
あの妹、多分人生を何度かやり直してるに違いない。
「あ、そういえばさ」
「んー……? どうかした?」
「いやほら、チラシの裏にあったんだけど……」
周りを確認すると、人溜まりのあるところを見付ける。
「ほら、あそこ。あそこに短冊があるんだ」
「短冊かぁー。いいね、二人でなにか書こうよ」
「もちろん、そのつもりだよ」
沙雪と立ち上がり、人溜まりの一角に行く。
用意された数々の紙とペン。
というか、役員の人が既に紙の補給をしている。
こんなに多く来るとは思ってなかったんだろう。
とりあえず紙を広げペンを持つ。
「…………」
こう、自分の字が汚いことを自覚していると、書き物とか躊躇してしまう。
それに比べて沙雪は、すごくキレイな字を書くのだ。
代筆してもらおうかな……。
いやいや、願い事をする書き物だ。
自分で書くことに意味がある。
「さて、何を書こうか」
ここは普通に『家内安全』とかだろうか。
それとも『交通安全』か。
いっそのこと『宝くじを買わずに一等賞』にでもしようか。
……バレたら怒られそうだからやめておこう。
「沙雪は、なにか書くこと決まった?」
「うーん……。書きたいことはいっぱいあるから、どれを書こうか悩んでて……」
欲張りすぎると、願い事が叶わない、なんて言うし、一つに絞ってるんだろう。
二兎を追う者は一兎をも得ず、とはよく言ったものだ。
はてさて、そんなくだらないことを考えてないで、自分の願い事を書かないと。
「うーん……、うーん……」
隣を見れば、沙雪が未だに唸っている。
「…………あ、そうか」
簡単な話じゃないか。
いつだって、自分の中には彼女で埋め尽くされている。
難しく考えることはない。
一度考えついてから、スラスラと書いていく。
それは沙雪も同じようで、同じように書いていく。
「できた」
「あ、貴一くんも書けた?」
「書けたよ。沙雪も?」
「うん」
お互いに、短冊を飾る。
「それじゃ、お家に帰ろっか!」
「そうだね」
「晩ごはん、何がいい?」
「う〜ん、沙雪の作るご飯は全部美味しいからなぁ」
「も、もう! そんなこと言っても、美味しいご飯しか出ないよっ」
「出るものが十分だと思う」
後ろを振り返れば、既に子供や大人たちが飾っていく。
そんな中で、ニ枚の短冊に目が行った。
「じゃあ、アレ作ってよ。豆腐ハンバーグ」
「ん! いいよ。帰りに材料とか飲み物とかも買って帰ろ?」
「いいよ」
自分の財布見てないけど、お金はちゃんと入ってるのかな。
と思ったが、金銭管理は全て沙雪がやっているので、気にすることはなかった。
二人で仲良く、手を繋いで帰った。
『沙雪が、元気でいられますように』
『貴一くんが、元気でいられますように』
イイハナシダナー
世間はもう七夕シーズン終わってるけど、この作品の七夕は今日なんですよ
今日なんです(迫真)
夏も終了して、次は秋のシーズンをやりたいですね
秋ってなにがあったかな……?
秋だけに秋は飽きちゃった
……なんちゃって!




