十八話目
まさかこんなにも早く更新できるとは思わなかった。
今回の話は、前話で言ったとおり授業参観
百合の話とも言えますね
「まずは服装からだ」
「うん、そうだね」
「いいか綾瀬。俺たちは百合の親族なのだ。俺たちが変な服を着ていたら、百合にも恥がかかる」
「うん、そうだね」
「というわけで、使わなくなった腕時計と、使わなくなった新しい靴、更に使うことのなかった真新しい財布を取り出す」
「使わなくなったの多いね」
いいんだよ。
仕事で使うには勿体ないくらいに、まあまあのお値段するんだから。
「金持ちはこういうところに金をかけるという。なら俺たちも、それを踏まえてオシャンティーになるべきだ」
「まあ、服装も大事なんだけどね?」
無視。
「百合は中学生だ。中学生と言えば、多感でオシャンティーに気を使うおませさんが多い。こちらをこそこそ見てなにかを言われてたら危険である」
「キャラ違うけどなにかあったの?」
「以上の点を踏まえて、オシャンティーになろうと思う」
「……とりあえず、さ……。天川くん」
「なんだね」
「オシャンティーって言葉が、既にオシャレじゃないから、ダメだと思う」
「なん……だと……」
前途は、多難である。
☆☆☆☆
結局、無難な服を着て百合の学校に。
主役はあくまで子どもたちなので、俺たち親族は目立ってはいけないだろう。
車で学校に入ると、そこはもう凄い。
近未来、というわけではないが、アニメに出てきそうな感じがする。
新品と言えるような綺麗な塗装。
罅などは見当たらないコンクリート。
そして駐車場はなんと地下。
なんなんだこの学校。
「すごいねここ」
「やっぱ偏差値が高いところは違うんだな」
「そうだね。でも、偏差値とか関係なしに、私は天川くんに会えたことが何よりも大事だよ?」
世界の中心で、愛をさけぶ。
ほれてまうやろー!
惚れてるけど。
綾瀬とは従姉妹設定なので、今回は手を繋がない。
「俺も、綾瀬に会えたことが何よりも幸せだよ。それで、受付はどこだっけ」
「もう……。紙読んだでしょ?」
「読んだけど忘れた」
「なんで!?」
驚く綾瀬に淡々と話す俺。
エレベーターに乗り上に向かう。
……ここエレベーターあるのか。
「いや、綾瀬も読むし、多分暗記してくれるだろうな、と」
「いやそうなんだけどね? ほらね? それでも少しは覚えよう?」
「まあ世の中には色んな人がいるからな。適材適所だ。というわけでここはどこだ」
なんて思っていたら、目の前に見取り図が。
「百合のクラスはここか。行くぞ綾瀬っ。敵は、本能寺にあり!」
歩き出した俺に、綾瀬が一言。
「ちょっと!? 天川くん、百合ちゃんのクラスは真逆だよ!?」
「今世紀最大の恥」
知らないところで勝手に動くとろくな事が起きない。
そう実感した。
☆☆☆☆
説明をしてなかったが、この授業参観は朝から夕方までで。
なんでも一日ずっと参観できるらしい。
というわけで、早起きしてここまでやってきた。
百合の授業風景を見るために、俺は早起きしたのだ。
今は、朝のホームルームをしてるようだ。
「中に入る?」
「いや俺って、結構小心者なんだよね。ほら、みんなが中にいて自分が入ると、視線を貰うじゃん? あれが少しつらい」
「何を気にしてるの……?」
「だから俺は廊下で待ってるよ。俺は野比だから廊下に立つ宿命を持つ」
「訳の分からないこと言うのやめよう?」
「……あの、できれば入っていただけませんか? 貴方達の会話が丸聞こえで、生徒たちが笑ってしまうんです」
「え」
ふむ、遠回しにうるさいから黙ってろ、と。
なるほど、それは難しいことを言う。
なんだかんだ百合の授業参観を楽しみにしていた。
テンションが上がっている。
「だがことわr」
「すみません、すぐに入ります」
俺の言葉を遮る綾瀬。
綾瀬に手を引かれ、教室の中に。
そこには、親御さんたちと思われる人たちが、後ろの方で話したりしている。
そして、それと同じように百合を見付けた。
本人は驚いた顔をしている。
「百合ちゃんいたね」
「ああ、しかも驚いてるしな」
作戦成功だ。
あの人と裏を合わせ、俺たちが来ることを黙っていたのだ。
とんでもない親子だと思う。
俺たちも後ろの方で大人しくいることに。
ホームルームが終わり、百合がやって来た。
「どうしてお兄ちゃんとお姉ちゃんが来てるの?」
「残念だったなぁ、トリックだよ」
「天川くんは少し自重を覚えよう? 流石に真面目になろうよ」
「ネタ振りかと思って」
「イチャイチャするのは家でしてほしいよね」
「あ、ごめんね百合ちゃん。それで、私たちはお母様からの代わりで来たの」
「え? お母さん来れないの?」
「うん。なんでも仕事で大事な用件があるらしくてね? それで、私たちがここに」
「そっか……」
百合は家族愛が強い。
俺たちが来ることも嬉しいけど、母親にも来てほしかったのだろう。
だけど、我慢する子なのだ。
だから、
「なら、しょうがないね」
と、軽く笑う百合。
あまり我儘を言わないから、ゲーム機を強請ったりしたときは、つい反動で買ってしまう。
母親もそれを理解しているから、俺にあまり強く言わない。
「ところで百合、俺はあまり紙を見なかったんだけど、今日はどの授業をやるんだ?」
「……お兄ちゃん、少しは見ようよ」
それはさっき綾瀬にも言われた。
「一時限目は英語だね。五時限目に体育をやって今日は終了。明後日の月曜が振替休日、という感じ」
「なるほどなるほど。久しぶりに中学の勉強をするな」
ずっと働いてたから、すごく楽しみにしてる自分がいる。
そこで、チャイムが鳴った。
「あ、もう席に戻るね。それとお兄ちゃん」
「なんだ?」
「あまり変なことはしないでね」
失敬な。
それだけ言うと、百合は席まで歩いて行った。
「百合は俺をなんだと思ってるんだ」
「トラブルメーカーかな? たまに天川くん、とんでもないことするよね。ほら、中学の頃ある日遅刻したし」
「あれは着替え忘れたあのときの俺が悪い」
パジャマのまま学校に行って、あいさつ運動してた学年主任に捕まったのだ。
俺は悪くない。
「はいみんな、席についてー」
先生が教室に入ってきた。
「今日は親御さんの方々が来てますけど、いつも通りにやりましょう」
『はい』
しかし偏差値の高い中学校、どんな授業をするのか興味深い。
☆☆☆☆
一時限目 英語
「Now Heart Reinforce's up to end this game.Watch you smile while you are sleeping」
やべえ、何言ってるのか分からねえ。
「じゃあ、この英文を訳してもらいましょう。そうですね……、では天川さんのお兄さん、答えをどうぞ!」
「文字が、読めん」
「……えっとー、お兄さんにはまだ義務教育は早かったかな?」
「ちょっとお兄ちゃん! ちゃんとやってよ!」
「いやいや待て待て。先生の言葉を聞け。俺は今、中学生以下と言われたんだ。悲しくて切ない」
「天川くん……」
綾瀬に可哀想な目で見られた。
いやだって、授業参観でまさかこっちに名指しされるとは思わないじゃん?
あの英文の返答をするだけなら、まだ『コロンビア』と答えられるんだが。
☆☆☆☆
ニ時限目 国語
「〜〜このとき書いていた作者、森絵都先生の気持ちを答えなさい」
誰だ。
初耳である。
「配った紙に、みんなの考えた答えを書いてもらい、今日回収するので、この時間内で書いてください。ではまず、先程の失敗を活かし、汚名返上をお願いします。天川さんのお兄さん!」
「ラーメン食べたい、ですかね」
「お兄ちゃん!!!!」
いやそう怒るなよ。
知るわけないじゃん他人の気持ちなんて。
俺が分かるのは綾瀬が俺のことを好きという気持ちだけだ。
他は知らん。
そんな奴が、著名人である人の考えを汲み取れるわけがない。
大方、締め切りとか編集からの電話が嫌いだとか、そういうことしか考えてないだろう(偏見)。
☆☆☆☆
三時限目 数学
「座標空間において、3点A(0, 1, 1),B(2, 2, 3),C(4, 0, 2)を通る平面に関して、点(9, 1, 1)と対称な点の座標を求めなさい」
座標空間とはなんだろうか。
これ本当に中学生レベルなんだろうか。
「五分を目安にみなさん解いてくださいね」
今まで分かる問題は一つも出ていない。
会社で使わないし、おまけに話題になることもない。
分からないのは必然だ。
「綾瀬、座標空間ってなんだ?」
「口頭で教えられるほど、頭良くないから私では教えられない」
名門大学に通う彼女でも無理とか、この中学校、レベルが高すぎる。
ていうか、綾瀬が考え事している。
頭の中で計算式作ってるのかな?
☆☆☆☆
四時限目も無事終わり、お昼ごはんとなった。
今日はお弁当持参で、綾瀬の手作りである。
屋上でシートを広げて食べることに。
「ここ屋上開いてるのか」
「その代わり柵が高いけどね」
「自殺防止じゃないかな? ほら、上にもちゃんと棘とかあるし」
まあ、この学力レベルの奴らが自殺するとは思えないが。
ただ人生何があるか分からない。
自殺するやつはするけど。
「今日は頑張って作ったんだ。天川くん食べて。はい、あーん」
「あーん」
「いやあのさ、なんでそうやって当たり前のようにいちゃつくの?」
「どこがいちゃついてるというのか」
綾瀬にまた食べさせてもらう。
というか、毎日食べてるけど、やっぱり美味しくできてる。
料理、頑張って練習したんだろう。
「美味しいな、やっぱ」
ボソリと呟けば、
「本当に? 良かった」
と言いながら微笑む彼女。
俺には勿体ないくらいの女だ。
時折、俺のどこが好きなのか不思議に思う。
「ほらもうそこだよ、そこ。あれでしょ? 私の授業参観を言い訳にイチャイチャしたいだけなんでしょ?」
百合がグレた。
誰が百合をこんな風に……!!
「そ、そんなことないよ? 百合ちゃんの授業するところを見に来たんだから」
綾瀬は綾瀬で、恥ずかしがりながら答える。
二人が仲良さそうに話してるのをBGMに、俺は自分で箸を持った。
☆☆☆☆
五時限目 体育
「まずば準備運動! 男女別でペアを組んでー!」
先生の言葉がグラウンドに流れる。
俺たち保護者は、少しだけ離れたところで見ている。
ちなみに、先生たちのご厚意で、パイプ椅子が用意されていた。
「みんなハーフパンツなんだね」
「まあ今はそうだろ。それがどうかした?」
「ううん。ただ、天川くんはブルマが好きだから、楽しみが減ったね、と」
「人を勝手に変態扱いしないでくれ」
「そう? この前、コスプレでブルマ履いたらすごく興奮してたよ?」
「それは気のせいだ」
公衆の面前で、とんでもないことを言う綾瀬。
確かに裸でするよりも、着衣でする方が興奮するけど。
ブルマだから、とかそういうのじゃないんだ。
「天川くんは、みんなと同じように運動できそう?」
「んー、どうかな? いくら仕事でも動いてるからと言って、運動を目的としたことはしてないからな」
「やっぱり? でも家で一緒の運動してるし、体力はあると思うよ?」
ちょっとした下ネタはやめてくれ。
「いやいや、流石に無理だよ。あ、みんな動き始めた」
お昼のときに聞いたが、今日の体育はレクレーションに似ていて、ドッジボールをやると聞いた。
戦力で分配で、男女ほぼ同じ人数になり、試合が始まった。
ちなみに、保護者の方たちも自分の子供が楽しそうに遊んでるのを見て、すごく和んだそうな。
☆☆☆☆
「それじゃあ、帰るよ」
「うん、忘れ物もないよお兄ちゃん」
「私も大丈夫だよ」
車を走り出す。
「お姉ちゃんは、今日の授業聞いてどうだった?」
「すごく良かったよ。初心に戻る、って言えばいいかな? 基礎は大事だからね」
「お兄ちゃんなんか聞いてなかったでしょ?」
「そうだね。天川くんは途中、欠伸もしてたから、机に座ってたら寝てただろうね」
やかましい。
いつかの買い物みたく、二人は後ろの席で話してる。
「でもお姉ちゃん、そんなに勉強してどうするの?」
「ん? どうするって……、やっぱりあれかな? 将来子供が出来たときに、勉強を教えられるようになっておかないとだからね。天川くんができないところは、私がしっかりするようにしないとだから」
逆に言えば、綾瀬のできない部分は俺が補う、と。
……綾瀬って何ができないんだろうか?
「それでね百合ちゃん」
「んー? どうしたのお姉ちゃん」
「今日、お母様が仕事で泊まり込みをするらしく、帰ってこないんだって。だから、今晩は私達の家で過ごさない? 今日は豪勢にしちゃうよっ」
「ほんと? いくいく。でも、匂い大丈夫?」
「だ、大丈夫」
生々しい質問はやめようか。
それからも、話題が尽きることなく、二人は楽しそうに話していた。
ちなみに、晩ごはんは本当に豪勢にしていた。
いやね、なんか終わり方とかおかしいと思うかもしれないけど、これダラダラ書いてるとエタるの
頭の中がハードラックとダンスっちまうの
ちなみに数学の答えは
(7, -3, 5)
となります。みなさん分かりましたか?
私? 無理ですね
ネットで軽く調べて座標空間というのを初めて聞いたレベルです
というわけで授業参観、いかがでしたでしょうか
楽しんでいただけなら幸いです