十六話目
ただいま
すまないみんな。
今話はシリアスになってしまった。
でもあらすじにシリアス無しとは入れてないし、いいよね……?
この話を読んだみんなはこう叫ぶ。
エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!!
「百合ちゃん。天川くん、なにが喜ぶかな」
「お義姉ちゃんからのプレゼントなら、なんでも喜ぶと思うよ」
投げやりな返事が来た。
「天川くんなら、なんでも喜んでくれるかもしれないけど……」
というかもう『プレゼントはワ・タ・シ』って言って、貰ってくれないかな。
健やかなるときも病めるときも、支え続けると誓うのに。
「無難にネックレスとか腕輪とかでいいと思うよ」
いや男の人って、女にネックレス貰って喜ぶのかな。
なんか記事で見たけど、ネックレスは束縛を意味するとかなんとか。
「んー……。ずっと考えてはいたんだけど〜」
天川くん、あんまり欲しいものとかないからなぁ。
部屋の内装も、私が住むことになって、私好みの部屋になった。
正確には、私の部屋にあったものを持ってきただけなんだけど。
ちなみに両親は何も言ってこなかった。
お母様は『頑張りなさい』と言ってくれたけど。
「手作りは?」
「手作り?」
突然の意見に、オウム返しをしてしまう。
「なんの手作り?」
「冬にかけてのマフラーとか」
「うーん……」
なかなか決まらない。
それからも、あれこれ考えたけど出て来なかった。
☆☆☆☆
「貴一」
「ん?」
「誕生日おめでとう。それじゃ仕事行ってくるわね」
「え? あ、おう……」
淡白過ぎる。
俺本当に息子なんだろうか。
いやまあ、別に気にしてないけど。
どうせ誕生日パーティなんか無いんだ。
百合のは俺が開催するから百合の誕生日パーティだけは欠かせない。
「俺も行くかな」
重い腰を上げて、会社に向かった。
☆☆☆☆
「ただいま」
「おかえりー」
少しだけ、いつもより弾んだ声だ。
なにか良いことがあったんだろうか?
例えば小テストで満点取ったとか?
いやいや、小学校じゃないんだから……。
大学にないだろ多分。
まあ、満点取ったことを褒めてほしいと言われたら、全力で褒めるけど。
「……なんか嬉しそうだけど、なにかあった?」
「え? どうして分かるの?」
「あ、いや……、その……、なんとなく?」
「もう、なにそれー」
彼女は笑いながら、俺の荷物を持ってくれた。
「先にお風呂入ってきてね」
「え? あ、うん」
いつもは新婚さんごっこをしてくれるのに、今日はどうしたんだろうか。
風邪? 熱? 病気?
くだらないことを考えながら、言われたとおりお風呂に入った。
☆☆☆☆
「お誕生日おめでとう〜!」
「おめでたー!」
綾瀬が珍しく大声を出しながら祝ってくれた。
あと百合、その言葉は違うからやめなさい。
その言葉がガチになりそうなことしてるから、シャレにならないから。
「ケーキも用意してあるよっ」
「イチゴのケーキ?」
「うん」
「高かっただろうに」
「手作りだから安く済んだよ?」
事も無げにそんなことをのたまう彼女。
「え? ケーキを、手づくり?」
「スポンジは市販で売ってるから、ただクリーム塗ったりするだけだし」
「いやいや、それでも十分すごいよ」
まず作ろうと思う発想がすごい。
「あのさ二人共、いちゃいちゃする前に食べない? 普通にお腹空いてるんだけど」
「あ、それもそうか」
「うん、食べようか」
三人で合掌して、料理にありつく。
「いや食べるのはいいけど、流石に多すぎないか」
「そ、そう……?」
「どんなに多くてもお兄ちゃんなら食べてくれるよ」
「物理的な意味で無理だから」
気持ち的には、好きな人が作ったご飯なら、全部食べたいけど。
近くにあった唐揚げを一口。
噛んだ瞬間、口の中に唐揚げの香りと肉汁が溢れ出た。
絶妙なバランスで感じる味。
少しだけ濃い目にしてるのは、俺の舌に合わせてくれてるからだろう。
彼女の気遣いな心を感じる。
「めちゃ美味しい」
「うんうん、お姉ちゃんは本当に料理上手だよね」
「そ、そんなことないよ〜」
褒められて顔を赤くする綾瀬。
可愛すぎ問題。
「ところで百合。あの人は?」
「お母さんなら、なんでも町の集まりだって」
ふーん。
本当に仕事人間なんだな。
綾瀬がいなくなったらどうするんだろう。
「そういえばお兄ちゃん、最近新しく出来た──」
その日の晩御飯も、会話は途切れることなく、ただ楽しい時間が過ぎて行った。
☆☆☆☆
布団に座り、綾瀬と話す。
「今日はありがとうな、綾瀬」
「ふぇ? なにがー?」
「いや、誕生日のこと。久しぶりだから、嬉しかったんだ」
「ううん。気にしなくてもいいよ。好きでやったことだし。それと……」
「ん?」
「こ、これ……!」
そう言って、顔を真っ赤にしながら渡してきたのは、カラフルな色で出来たミサンガだ。
「当たり障りのないものを考えて、ミサンガ作ったんだけど……」
「こ、これって、誕生日プレゼント?」
「え? う、うん。お守りになるかなー、って」
「お、おぉ……」
変な声を出しながら、ミサンガを受け取る。
腕に嵌めると、ピッタリだった。
「ありがとう綾瀬」
「ううん! 受け取ってくれてよかった……」
彼女の反応を見て、ずっと考えていた決意を口にしようと思った。
「もう一つだけ、プレゼント貰っていいかな?」
「え? な、なにか欲しいのあった!?」
驚きながら聞いてくる綾瀬。
もう、どんな行動も癖も、なにもかもが愛おしく感じる。
「綾瀬しか持ってないものだよ」
「そ、それって……」
秒を開けて、彼女の目を真っ直ぐ見る。
「俺は、綾瀬が欲しい」
「っ!?」
「綾瀬のことが、好きだよ。世界中の誰よりも」
「う……、うそ……」
「嘘じゃない。この気持ちは本物だ。ずっと、ずっと前から好きだった。だから、俺と付き合ってほしい」
そう言うと、彼女のきれいな瞳から、大粒の涙が流れた。
すわ嫌われたか、と思ったが、
「で、でも……っ。私、天川くんみたいに器用じゃないよ」
「器用だよ」
「他にも良い人だって」
「俺の中では綾瀬が良い人だ」
「私なんかじゃ、天川くんとは不釣り合いだよ……っ」
涙声の裏に隠された『嬉しさ』を感じる。
俺は彼女の両肩に触れる。
「確かに、綾瀬よりも綺麗で可愛い人だっているかもしれない」
「っ!?」
「料理も綾瀬よりも上で、家庭的な女の子と出会うかもしれない」
「な、なら……っ!!」
「でも俺は、例えそんな人たちと100回出会ったら、101回、綾瀬のことを考えるよ」
「う、うぅ……!!」
「綾瀬『で』いいなんて、そんな妥協案なんかじゃない。綾瀬『が』いいんだ。変わりなんて誰も居ない。この世に存在する目の前の君が、誰よりも好きなんだ」
「……ほ、本当に、私でいいの……?」
「いいよ。綾瀬がいい」
「……う、うん……っ」
彼女は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、
「よろしく、お願いします」
と、笑顔で応えてくれた。
その顔は、何よりもキレイだと、そう思った。
☆☆☆☆
「ねえ天川くん」
「ん? どうしたの?」
「恋人、でいいんだよね?」
「そうだよ」
「な、ならさ。名前呼びしてみない?」
「え?」
「私のこと、名前で呼んでほしいな」
とんでもない提案である。
ハードルが高すぎないか。
ハードルが高ければ高いほど潜りやすいとか言うけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
「さ、さ、さ、さ……」
「うん」
「さ……、ゆ……、き……」
「ふぁー……! も、もう一回っ」
「むりむりむり! 恥ずかしい」
なんとか振り絞った声だというのに。
「そ、それより、綾瀬も言ってみてよ」
「え?」
「俺のこと。貴一って」
「……え、えっと〜……。き、きいちくん……?」
恥ずかしそうに言う彼女の破壊力は、尋常じゃなかった。
「……やっぱり、名前呼びはあとからにしよ……?」
「……そうだな」
俺たちにはハードルが高すぎた。
というか、綾瀬は知らないけど、こっちは小1から片思い続けてきたんだ。
そう簡単に変えられるわけがない。
「それともう一つ、お願いがあるんだけど」
「ん? 叶えられることなら叶えるよ」
「えっとー、そのー」
なんだか歯切れが悪い。
そんなに頼みにくいことなんだろうか。
もしかして書類にサインとか?
なに? 婚姻届? 喜んで書くよ?
「……せい」
「え?」
「恋人になったんだし、同棲したいなー、って」
「……え?」
え?
「二人きりの、愛の巣がほしいなーって」
…………………………ふぁ!!??
エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!!
ついに、ついにここまで来ましたね
長い戦いでした
恋人になってから、様々な試練が待ち受けるのがただの恋愛小説。
しかしこれは訓練を受けた恋愛小説。
そ ん な も の は な か っ た