十話目
待 た せ た な
い、言い訳をさせてくれ
仕事とかで大変だったんだ! 本当だ信じてくれ!
僕はサボってなんかない信じてくれよ!!
今日は土曜日。
そして、前に綾瀬と話した約束の日。
「忘れ物はない?」
「うん!」
「私も大丈夫」
「じゃあ行くよ」
「「は〜い」」
ブレーキを下ろし、走り出す。
この前綾瀬と話したとおり、三人で出掛けた。
ショッピングモールで買い物がしたいということなので、住所をカーナビに登録。
ナビゲーションスタート。
「ナビ使うなんて、お兄ちゃんかっこわるいー」
「やかましい」
ナビの声に従いながら、道路を走る。
話しやすいように、綾瀬と百合は後部座席に座らせている。
「そういえば百合ちゃん、勉強の方はどうなの?」
「ん? 勉強なら大丈夫だよ。あんなの先生の話聞いてるだけでも平均点以上は取れるし」
社会人になった俺からすれば、雲の上のような会話だ。
ていうか百合って本当に要領が良いんだな。
まあその平均点が、30点なのか60点なのかとか、平均点によって変わるが。
「分からないところがあれば何でも言ってね?」
「あ、それならさ──」
なんでこの二人は学校以外で勉強の話をするんだろうか。
国語、数学、理科、社会、英語。
五教科について様々な質問をしている。
マニアックな質問をして、綾瀬はそれを全て答えている。
国語なら、作者の考え。
数学なら、超越数についての求め方。
理科なら、王水の作り方。
社会なら、足利義満の邸宅として作られた鹿苑寺舎利殿の通称。
英語なら、ネイティブについて。
とりあえず会話は聞き流した。
「とかかな。分かった?」
「うんっ。受験のために色々な分野を学んでおこうと思ってたんだ。どうせお兄ちゃんに聞いても答えられないだろうし」
「答えれるよ。正解とは限らないだけで」
兄としての威厳がないことが判明した瞬間だった。
「それを答えられないって言うの」
百合のツッコミに、車内で笑いが起きる。
暗記系は駄目なんだ。
正確には暗記系も駄目なんだ。
車が温まってきたので、暖房をつけておく。
「それに、百合と俺とじゃ、学校が違うからな」
俺とは違って要領の良い百合は、名門中学校に通っているわけだ。
勉強なんて最低限のことだけ覚えて、あとは適当に生きるほうが楽でいいよ。
60代の偏差値と50以下の偏差値なら、明らか前者の方が良いだろう。
まあそんな状況の中で、綾瀬は名門高校に進学したわけだが。
天才は凡人には分からない、はっきりわかんだね
「あと──」
なんて話しながら、のんびりとした時間を過ごしながら、車を走らせた。
☆☆☆☆
「なんで駐車場が地下にあるんだここ」
俺の知ってるデパートじゃない。
せめて屋上じゃないのだろうか。
標示などを確認しながら、地下へと入っていく。
「混んでるなおい」
「結構人気な場所みたいだよ? だからじゃないかな」
俺の独り言に返してくれる綾瀬。
健気な彼女に今日も悶絶。
「ふーん。まあ駐車場が一階じゃなくて地下にある時点で、儲かってるとは思ってたけど」
「あのとき泊まったあとに歩いたデパートよりも大きいから」
「泊まり? デート?」
百合が食いついた。
後半の言葉はどこから連想されたのか。
「ねぇねぇお姉ちゃん! どういこと!?」
「ふぇ!? えっと、それは……! あ、天川くん!」
「さってと、どこが空いてるかなー」
運転に集中した。
☆☆☆☆
綾瀬はところどころ濁しながら、あの日のことを話してる。
駐車できるところを探していれば、地下五階まで来てしまった。
「着いたぞ〜」
「「はーい」」
エンジンを切り、後ろの二人に知らせる。
二人が一緒に車から降りたのを確認してから、俺も降りる。
扉を閉めて鍵をし、閉まってるかどうかの確認。
「よし。それじゃ、行こうか」
「あ、お兄ちゃん」
「ん?」
運転席の方に綾瀬、助手席の方に百合だったため、百合が早足でこっちの方にやってくる。
「どうせだから、手をつないで行こうよ」
「それはいいけど、クラスメイトに見られたらどうするの?」
「大丈夫! 手を繋ぐと言っても、真ん中にお姉ちゃん入れるから」
「え!?」
まさか自分も手を繋ぐことになるとは思わなかったのだろう。
驚きと恥ずかしさを込めた声があがる。
「例えそうだとしても、三人で並んで歩いてたら、他の人の邪魔になるだろう」
「超大型デパートを舐めてもらっては困るよ、お兄ちゃん」
チッチッチ。といいそうな感じで肩をすくめる百合。
お前誰やねん。
「……まあ、分かったよ。綾瀬もそれでいい?」
「う、うん、いいよっ」
良かった。
綾瀬を真ん中にする前に、
「あ、そうか。綾瀬、バッグ貸してくれ」
「え? ど、どうして?」
「いや、真ん中にいると、バッグ持てないだろ? 百合も百合で自分のバッグ持ってるし、俺は何もないから。俺が持つよ」
「……それじゃ、甘えていい?」
「いいよ」
綾瀬をバッグを受け取り、そのあと手を繋ぐ。
「やっぱり、天川くんの手は大きいね」
「そう? 平均だと思うけど」
「私も、他の人の手を知ってるのはお父様しかいないんだけどね」
「そ、そうなのか……」
「……あのさ二人共、すぐそうやってイチャイチャするの、やめてくれない?」
「「してないよ!」」
「それだよ!」
百合に突っ込まれた。
三人で手を繋ぎながら、地下にあるエレベーターに乗り込む。
☆☆☆☆
「……なるほど。これは確かに、三人並んでも邪魔にならないわけだ」
建物の大きさは分からないが、通路を真ん中に起き、左右に店舗を置く設計だ。
エレベーターの中には五階まであったけど、大きすぎないかここ。
まずエレベーターも六個あったし。
「ところで二人共、どうして今日はここまで?」
「服とか大学で使うものとかが欲しくて……」
「私は二人に誘われて」
兄と妹の兄妹はだめだ。
目的なく生きてやがる。
それに比べて綾瀬は流石だ。
ちゃんと計画性と目的を持って生きてる。
「んー……。綾瀬は別行動にする? それとも百合を連れて二人で行動する?」
俺は車で寝てるよ。
「そんなのだめなんだから。お礼ということで天川くんも来たんだから、一緒じゃないと嫌だからね?」
可愛く(好きな人贔屓)お願いされては、反論もできなくなる。
それに、バッグも俺が持ってるので、付いていくことは決まりだろう。
「ういっす。百合も来るだろ?」
「もちのロン」
古いわ。
「まあ見たいものがあるのはいいけど、欲しいものがどこの店舗にあるのかとか、知ってるの?」
「ううん。そういうのを自分の足で見付けるのも、お出掛けの醍醐味かなー、って」
さいですか。
いいけどさ。
会話もほどほどに、俺たちは一緒に歩き出した。
目についたのはたこ焼き屋。
「とりあえず腹ごしらえでたこ焼きでも食べない?」
「早すぎるよ!? まだ三歩しか動いてないよ!?」
「いいね。たこ焼き食べようよお兄ちゃん」
「なんで百合ちゃんはそんなにも適応できてるの!?」
俺に似てるんじゃないかな?
脳は別でも、感性は似てるんだろう。
兄妹だしな。
「買い食いも視野に入れよう。一パックだけ買って、三人で食べる?」
たこ焼きは一パックに9個入っている。
9÷3=3
3つなら丁度いい量だろう。
「それはいいけどさお兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「お昼ごはんはどうするの? こうやって買い食い?」
「それで大丈夫でしょ。いけるいける」
「……まあ、いいんだけどさ」
なんか百合が呆れてる気がするけど。
気にせず綾瀬に話しかける。
「綾瀬もそれでいい?」
「うん、いいよ」
よしきた。
たこ焼き屋に行き注文する。
頭にタオル巻いてるけど、この人屋台のつもりなんだろうか。
「9個入りを一つお願いします」
「あいよ。400円だ」
財布を取り出し、百円玉を四枚取り出す。
「これで」
「はいどうも。ちょっと待ってくれ」
店の人はその場でたこ焼きをパックの中に入れていく。
「マヨネーズとソースとネギはどうする?」
「あ〜……」
どうしよう。
マヨネーズって油の塊なんだっけ。
百合が太るのは別に気にしないけど、綾瀬も女の子だし、体重は気にするだろう。
まあ、別に綾瀬が1kg増えようが5kg増えようが、俺からしたら誤差の範囲だがな。
「マヨネーズ抜きでお願いします」
「任せろ。……はいどうも」
「ありがとうございます」
たこ焼きを受け取り二人の元に。
「買ってきたぞー」
「お兄ちゃんありがとう」
「ありがとう天川くん。お代は……」
「いいっていいって。気にするな気にするな」
自然と財布を出そうとした綾瀬を止める。
少なからず、学生からお金を取ろうとは思わない。
そこまで性根が腐ってると思われてるんだろうか?
「で、でも……」
「いつも家事をしてくれてるだろ? そのお礼だと思ってくれればいいよ」
「……うん。分かった。じゃあ、お言葉に甘えるね?」
「うむうむ」
「……自然とそうやってイチャつくのやめない?」
「どこにイチャつく要素があったんだ」
「うわ、典型的なバカップルだ」
「だからカップルじゃないって。そう何度も言ってるだろ?」
「天川くん」
「ん?」
「あーん」
「いやいや、自分で食べるって」
「お金を出してもらったんだから、これくらいはさせてほしいな」
「……。あーん」
「ふふふ」
なかなかに美味しいじゃないかこれ。
「お兄ちゃん」
「ん? どうかした?」
「今のやり取りについての反論は?」
「…………カップルじゃない」
絞り出すのがやっとだった。
この小説書いてて思ったんだ。
なにか違和感あるな、と思ったら、前書きも本編も後書きも、何一つボケたりしてないからだ、と。
たまには自由にボケる話を書きたい。
あとついでに戦闘描写も書きたい
別の作品書いてやろうかな。
感想を送ってくださった方、ブクマをしてくださった方、お読みいただきありがとうございますっ