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[3]

 「なあんだ。」

 少女はいかにも残念そうに声を上げた。 それから、部屋の中央に置いてある背の低いテーブルのところに向かい、地べたに腰を落ち着けた。

 しばしの沈黙が流れる。他人と話をするのがそう得意ではない僕は、自分の部屋に居るはずなのに、言い知れぬ居心地の悪さを感じていた。一方少女の方は、そんな僕の雰囲気など構うことなく、平然とただそこに座っている。

 とうとう、その空気に耐えられなくなった僕は、

 「あなたは…?」

 と、おずおずと尋ねた。すると、

 「私?…私は妖精。」

 と、これまた短く答えた。

 そしてまた、奇妙な沈黙が続く。会話の歯車が動き出すのは、容易なことではなかった。

 何を尋ねたらいいか、何を聞けばいいか、何を話したらいいか。僕の頭は、固まったままの体とは裏腹にぐるぐると猛スピードでいろいろな考えが回りまわっていた。それでいて、一向にひとつには定まらない。

 そんな僕の様子を少女、いや妖精は、

 「ふふっ。」

 と、まるで嘲るかのように、鼻で笑った。

 僕は、常々こんな態度をとられるのが非常に嫌だったので、このときも、その場から逃げだしたくなるような…いっそ暴れだしたくなるような…感情に襲われた。

 しかし、そんなことしても何にもならないというのは分かっていたので、とりあえず気持ちを静め、不意に気になったことを妖精に問いかけた。

 「さっきのあれ、えーと確か、ゲマトリヤっていうのは…?」

 しどろもどろになりつつ、聞いてみる。

 「ああ、あれ。あなたの名前よ。」 

妖精が答える。

「名前?」

「そう。私がつけた、あなたのあだ名みたいなものよ。」

「どうしてそんな名前を?」

会話の歯車が少しずつ回り始めるのを感じる。

「だってあなた、鳥矢って名前でしょ?それに結構なゲーマー。だから、ゲーマーの鳥矢さんで、略してゲマトリヤ。」

確かに僕の名前は鳥矢貴[たかし]で、そんなに上手ではないにしろ、ゲーマーではある。

もっともそれは、ゲームや本のほかに、これといった趣味がないからなのだが。

「なんで僕の名前を知ってるんだ?それに…ゲーマーだってことも。」

知らずに僕の口調も、さっきまでの変に畏まった感じが消えていた。

「なんだっていいでしょ?」

ごまかすかのような妖精の口ぶりに、思わずぼくは怪訝な顔を示した。

 「…ふふっ。ごめんなさい。あなたをからかうのが楽しくて。…私は、この世界にやってきて、色んな人間を見てきた。その中であなたが『魅力的』に見えた。だから、あなたのことをそれとなく調べていたのよ。私の目に狂いはなかったわ。」

 僕は、お世辞にも誰かから、殊に女性から魅力的だと言われたことはなかった。もちろん、生まれてこのかた女性経験などあるはずもなく、また、交友関係も極めて乏しいものだった。

 だからこそ、この妖精からの一言は、僕を大いにたじろがせた。

 「…いったでしょ?あなたをからかうのって楽しいの。」

 そんな僕の様子を見て、妖精は言い放った。僕は彼女に一杯食わされたらしい。

「…この世界、って?」

さっきの妖精の言葉に少し引っかかるものがあるので聞いてみた。

「あなたが今生きている世界。」

妖精は簡単に答える。またしても怪訝な顔をした僕に、

「そういう意味よ。私はあなたが今生きている世界とは、別の世界から来たの。」

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