ポンコツ×?=天才少女 ~それは遠い未来?~
と、まあそれは俺がよく見る夢の話。
…現実には、悲しくなるほど遠い。
【国立ソーサー魔法学園高等部2学年Fクラス】
春の期。まだ2年生になったばかりの野外授業。
本日は天気もよく、絶好の魔操石テスト日和。
一人ひとり、代わるがわるテストを受けていく。
他の生徒たちは手に握る短剣に炎が揺らめく中……
俺の短剣は太陽の光を浴びて、金属の煌びやかな輝きを放っていた!
「わはは! フェンのやつ、まったく炎が上がってねーの!! さすが、噂に名高いポンコツ勇者!!!」
指差しで、周りの生徒たちに爆笑される。
…はい。嘲笑の通り、俺の短剣は炎のほの字も上がっていないのである。
「っるせ。コ、コツが掴めないだけだ」
短剣の柄に埋め込まれている、赤の魔操石。
これは、人が念じることでそれに呼応し、炎を起こす魔石だ。
この世界の武器には魔操石が使われていることが当たり前。
なぜなら、流通している金属では凶悪な魔物の皮膚を斬ることができないからだ。
……すなわち、魔操石をまともに使えない人間はポンコツ扱いされるのだ。
まあ、ポンコツ扱いされるのか否かは俺の経験談であるのだが。
「ほら、見てみろよ女子のほう! 噂には聞いてたけど、ああいうのを天才って言うんだろうなぁ~」
男子たち総勢ですぐ隣の女子たちのテスト風景を眺めている。
…それもそうだ。俺たち男子の実力と桁違いの奴が一人いるって噂だからな。
天を衝かんばかりに豪火を上げている、黒髪の少女。
女子の中でも頭一つとびぬけた長身。よく鍛錬されていることを証明している、スタイルの良さ。
「フェンもあれぐらいならないとな。まっ、一生かかっても追いつくかどうか疑問だけどなー」
「眉目秀麗、文武両道…。ああいうのを天才っていうんだろうな」
天才…ね。分かってるよ、人には才能の差があるってことくらい…さ。
「俺もあれぐらいの炎、出してやる! 見てけよ、見とけよ~!」
大柄の男子が、調子に乗って短剣を勢いよく振り上げる。
しかし、黒髪の天才少女の炎にはまるで届かない。
「…あっれ~? おかしいな、くっそ! もっと出ろよおらぁっ!!」
ブンブンと大柄の男子が短剣を振り回し、周りの男子たちが一目散に逃げ始める。
「バカ者! 念を送っている最中に暴れるな!」
先生の制止も聞かず、大柄の男子は勢いをなお強めていく。
「くそくそ! うぉぉおおおおっ!!! ……あっ」
拍子にすっぽ抜ける短剣。炎を携えたまま、黒髪の天才少女へと……
――――危ねぇっ!
咄嗟に反応し、短剣の進行方向へ腕を…!
「ぐっ……!」
短剣は俺の左腕に刺さり、次第に炎の力を弱まっていく。
「お、おい! 大丈夫か!?」
鋭い痛みが全身を走る…!
男子女子入り乱れ、やじ馬が殺到する。
人だかりをかいくぐり、先生が俺に駆け寄り患部を確認した。
「だ、大丈夫です。俺、怪我の回復は早いほうですから…」
「すぐに回復魔法をかけるから、短剣を抜くぞ。少し我慢しなさい」
俺自慢の治癒力と回復魔法も相まって、あっという間に傷口は塞がっていく。
「フェン君、万が一もある。次の授業は休んで保健室に行きなさい。…それにひきかえ、このバカモン! おまえは後で職員室に来なさい!!」
「す、すいません! ……っちぇ」
大柄の男子はこっぴどく叱られ、その後のテストは反面教師的に静かに行われた。