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8.ルル

 席を移動した俊介は、目の前の女性を見て内心で安堵の溜息を吐き出した。

 ショートカットの黒髪が良く似合う活発そうな彼女は、いかにも普通そうに見えたからだ。プロフィールカードを見ても、神眼スキルを使っても、そのイメージに変わりはない。

 ルルと名乗った二十五歳の女性は、両親と共に花屋を営んでいるようである。所持スキルも成長促進と、花屋向きの健全そうなモノだった。種族も人間で、俊介はホッとした。


 プロフィールカードに書かれている事を元に、俊介は無難な会話を組み立てる。正直言えば、もう少し積極的にいきたいところではあるが、残念ながら先ほどまでの疲れが尾を引いていた。俊介は休憩だと割り切り、プロフィールカードを見るのもそこそこに、適度に相槌を打って対応する事にする。

 ルルの癖だろうか、やけにじっと俊介の目を見つめて来る。

 少しだけ恥ずかしく感じたが、自分から目を逸らすのも気が引ける。対抗するように、俊介はしっかりとルルの目を見て話を聞いていた。

 しばらくそうしていると、少しばかり回復してきた。

 頃合いかと判断した俊介は、戦闘モードへと思考を切り替えた。

 

「なんだかまったりしてきました」

 俊介の言葉にルルが首を傾げる。

「まったりですか?」

「はい。ずっと緊張しっぱなしだったんですけど、ルルさんと話してたら肩の力が抜けてきました」

 目を見て笑いかけた俊介は「癒し系ですね」とルルを褒めた。

「そうですか?初めて言われました」

 照れたように笑うルル。

 接客業をしているだけあって、随分と愛想が良いと感じた。

「本当ですよ。三分なんて短い時間じゃなくて、もっと長く話していたいです」

「それは私も思います。三分て短いですよね」

 上手い事逃げられてしまった。

 話題が時間の方にシフトした事を残念だなと思いつつも、俊介は言葉を続ける。

「ですよね。短すぎて何を話して良いか逆に迷っちゃいます。あっそれ可愛いですね。水色の花が今日の服装に合ってますね」

 少しばかり強引に話題を変えると、俊介は自らの頭を指差して見せ、ルルがしていた花の飾りがついた髪留めを褒めた。

「ありがとうございます」

 嬉しそうに、はにかんだルルだが、この話はあまり広がりそうにない。

「彼氏に貰ったとかじゃないですよね?」

 そんな冗談を言って探りを入れつつも、早々に判断を下した俊介は、プロフィールカードへと視線を走らせて次の話題を探したのだった。


「シュンスケさんは、サクラじゃないですよね?」

 突然の質問はあまりに予想外で、俊介は思わず本気で噴出してしまった。ルルに「笑わないでください」と注意され、謝りながら顔を上げた。

「ごめん、想定外だったからつい。サクラではないですけど、サクラに見えました?」

「はい。なんだか場馴れしてるし、こういう所に来る必要がなさそうなので……」

 少しだけ申し訳なさそうにしたルルを見て、俊介は苦笑した。

「それを言うなら、ルルさんも同じじゃないですか?絶対モテますよね?」

「そんな事ないです。私なんか……」

 しりつぼみになった声。表情にも僅かに影が差したように見えた。

 想定外のその反応に、どういう訳か俊介の胸が僅かに高鳴った。その事に自分で驚いた俊介だったが、すぐに取り繕って言葉を紡ぐ。

「ルルさんは魅力的ですよ。お世辞とかじゃなくて、本気でもっと会話したいって思ってるんですから」

 俊介の言葉にルルは驚いた様子だった。

「ありがとうございます」

 ルルが小さく頭を下げると、はらりと髪が落ちた。その陰に隠れて分かり辛くはあったが、ルルの頬は間違いなく緩んでいた。


 これは押せばいけるだろうか。

 それとも一度引いてみるべきか。

 三分という限られた時間の中での駆け引きは、いつも以上に気を遣う。

 俊介は先程までの疲れなどすっかり忘れてしまったかのように、どうやったらルルの気を惹けるかという事に頭をフル回転させていた。


 とは言え、早々に良い案が思いつく訳もないので無難な会話をしながら、ルルを観察する。決して美人ではないが、小動物を思わせるその外見は十分俊介のストライクゾーンに入っている。

 できれば立ち姿を見たいんだけど……。

 脚フェチである俊介は、女性の脚に対して並々ならぬこだわりがある。

 だがこういう場では、それを見るのが叶わない事は俊介とて十分承知している。機会が訪れるのを待とうと、気持ちを切り替えると、再びプロフィールカードへと視線を向けた。


「あれ?」

 ふと気づいた事があり、思わず声が出た。

「どうかしましたか?」

「ここの内容が違ったから」

 そう言って俊介はプロフィールカードを指さした。

 自分のプロフィールでは"休日の過ごし方"となっていた場所が、ルルの方では"デートで行きたい場所"になっている。

「本当ですね。ふふ、シュンスケサンは、のんびりするのが好きなんですか?」

「そうなんですよ。だから一緒にいて安らげる相手が理想なんです」

 遠回しにルルみたいな相手がタイプだと伝えた俊介は、反応を観察しつつ微笑んでみせた。

 しかし残念。遠回し過ぎたのか、ルルは大した反応を示さなかった。

 落胆しつつも、俊介はルルのプロ―フィールカードの内容を話題に上げた。

「ルルさんはお散歩デートがしたいんですか?」

「はい。お弁当作ったりして、ほのぼのしたデートが憧れなんです」

 俊介は「気が合いますね」などと言いながら、自分のプロフィールカードの趣味欄を指差した。

 終了の合図が聞こえたのはそんなタイミングだった。

 せっかく共通点が見つかったのにと、悔しがる俊介だが仕方がない。早い段階で、この話題を切り出さなかったのだから自業自得だろう。

「もうちょっと話したかったんだけど、残念です」

「私もです」

 お礼と共にプロフィールカードを返却し合った二人は、互いに笑い合った。

 俊介は「また後で」と挨拶をして、名残惜し気に席を立ったのだった。




 

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